2017-12-02
向井太一インタビュー:自分が楽しみながらできるようになったのが、いちばんです



昨年、自身の年齢を冠したEP『24』をリリースし、ブラックミュージックを軸に、エレクトロニカやアンビエント、オルタナティヴなどさまざまなジャンルを自由に行き来し、先鋭的なフューチャーソウルで、感度の高いリスナーの耳を捉えた向井太一。毎月SoundCloudに新曲を上げていくなど、リアルタイムに新しいサウンド、新しい音世界を更新していくなど、試みのある活動もしてきた彼が、1stフル・アルバム『BLUE』を完成させた。CELSIOR COUPEやyahyelのMONJOE、MIRU、荘子itといった馴染みのコラボレーターに続き、初のタッグを組むラッパーのSALUやBACHLOGIC、mabanuaといったクリエイターとの刺激的で、かつ普遍的な歌心を持った曲が並ぶ。トラックはとことんクールでエッジの鋭いものだが、歌はよりエモーショナルで、てらいのないポップさがある。その二律背反的なバランスは、向井太一でしかなり得ないものだろう。無邪気な、柔らかな笑顔で、鋭くしたたかな青い炎を燃やす会心作。このアルバムへの道のりを聞いた。

─充実の1stアルバム『BLUE』が完成しました。多彩な内容となっていますが、曲作りはこの1年続いていた感じですか。

曲作りはつねにやっていて、時間があればレコーディングはしているんです。アルバムを出そうという話になって、じゃあまずシングルとなる曲を作ろうと、7月にリリースした「FLY」を作ったんです。でも曲によっては、アルバムに向けてというよりはいろいろと作り続けている中での曲もあるんです。特にCELSIOR COUPEとは、常に曲を作り続けてストックをどんどん増やしている感じです。今回初めて組んだ、mabanuaさんやBACHLOGICさん、Kan Sanoさんは、アルバムを制作すると決まってからオファーをしました。いろんな曲があるんですけど、最終的に、ちゃんとまとまってよかったなと思ってます。

─今お名前が挙がったKan Sanoさんとの「君にキスして」(ボーナストラック)は、とても新鮮で面白い曲になりましたね。セッション的なグルーヴがあり、かつポエトリーなピアノの旋律にキャッチーな歌が乗った、フリーキーなムードの曲となっています。どのように作っていった曲なんですか。

一度、Kan Sanoさんのツアーに呼んでいただいて、そのときにこの曲をセッションしたんです。それが僕の中ですごくよくて、「君にキスして」は元々10代の時にやっていたバンドで歌っていた曲で、ファンの人気も高かったんです。フル・アルバムということで、昔の曲をリアレンジして出したいなというのはずっと考えていたんです。Kan Sanoさんのセッションしたときの感じもありつつ、また新しい感じでできたんじゃないかなと思ってます。Kan Sanoさんにしかできないアレンジはさすがだなと思いましたね。これで歌うのは大変だろうなと思ってました(笑)。でもすごく気に入ってます。

─またyahyelのメンバーとの曲など、これまでの作品でもおなじみの方々もいますが、もうだいぶお互いの感触がわかってきたというか、一緒に曲作りすることに慣れてきた感じはありますか。

前回のEP『24』のときは、最初にどういう曲をやろうかという打ち合わせをして、yahyelチームにトラックを作ってもらったんです。今回は一から、一緒に自宅で作業しながら、どういうものをやるのか話し合いながらやりました。前回に比べてちょっと手慣れた感じはあったと思いますね。

─yahyelのMOJOEさんMIRUさん等との曲、「Can’t Wait Anymore」はどんなふうにできていったんですか。

yahyelとはライブやクラブで会うと、また一緒にやろうよという話はずっとしていたんです。でもなかなかタイミングが合わなくて、改めてアルバムを作るとなったときに、やっぱり一緒にやりたいってMIRUくんやMONJOEくんと話して、じゃあやろうやろうってなりました。この曲は本当にすぐにできたっていうか、勢いで作った曲でした。世代が一緒なのもあって、熱量も一緒で、楽しみながら作った感じでしたね。

─このメンバーでしかできないことやろう、というのもありましたか?

そうですね、yahyelとかMONJOEくんのやってるDATSとかの、ポップだけどエグみのある部分と、メロディはキャッチーでアンセム感があるという、僕にしかできないようなメロディラインがありました。今回は特に、MONJOEくんの色合いが強いように思いますね。いいバランスで、お互いのプロジェクトではできないようなことや、一緒にやるという意味合いがしっかりと出た曲だと思ってます。

─制作現場では、どういう言葉が飛び交うんですか。

僕自身は、軽めの四つ打ちで、ウワモノはデジタルな感じはありつつ、民族的な要素もあるような、前回の『24』で作っていたものとは違った雰囲気のものをやりたくて。歌詞も、どちらかというとクスッと笑っちゃう、軽めなノリのやつを書いたんです(笑)。そういう絶妙なバランス感──イケてる感じと、ちょっと面白おかしくやっているような中間の曲を作りたいっていうのはありました。いい意味でノリでやってるところがあるというか(笑)。

─そういうユーモアの部分、絶妙な感覚が通じ合うというのは、一緒に曲を作る上で大事なところですね。

そうですね。あとは、お互いにダサいものを作らないという信頼感はあると思うので、そこはベースでありつつ、自由にやった感じです。

─歌詞の面では、先ほど話に出たシングルとなった「FLY」では、コピーライターの阿部広太郎さんと一緒に作詞をしていますね。これは、どんな経緯からだったんですか。

昨年は、サウンド面でトレンドを取り入れて、日本ではあまりないようなものをやりながら、歌詞は日本語詞で、邦楽としての強みも表現したいということで作品を作っていたんです。今回のアルバムでも、そこは引き続き持ちつつ、より深いところまでやりたいというのがありました。僕の持っている世界観や思いを、阿部さんの力を借りてもっと深いものに変えてもらおうというので、チームと話し合って紹介してもらったんです。実際に阿部さんと話してみると、「そういうことが言いたかったんですよ!」と言っちゃうくらい的確で、話し合いながらどっちの言葉がいいかとか、時間をかけて作った感じでした。新しい歌詞の書き方というか、新しい世界観で曲作りができたなと、阿部さんと出会って感じました。

─同じソングライターの方でなく、あえて少し違った分野の言葉のプロの方を選んだのはなぜですか。

そのほうが、面白味があるかなと思って。歌って、メロディのかっこよさを重視する分、言葉選びが限られてくると思うんです。そういう枠組みみたいなものが外れた感じがしますね。自分の気持ちにすっと入る言葉で、でも僕だったら今まで選ばなかった言葉選びができたと思ってます。歌い手の人が作る歌詞、僕が作っていた歌詞とはちがった感じで面白かったですね。

─ LUCKY TAPESの高橋海さんのアレンジもまたいいですね。

海くんは幅が広いというか。彼自身、聴く音楽も幅広くて、僕がベースとしてるブラックミュージックも聴くし、ポップスやエレクトロニカ、ハウスよりのものも網羅しているんですよね。僕はもちろん、LUCKY TAPESも好きだったし、海くんがソロでやっているプロジェクトもすごく好きで。LUCKY TAPESの疾走感のある爽やかなサウンドと、それとはまた少しちがった海くんのソロでの顔みたいな、中間のサウンドを作ってほしかったんです。まさにこの「FLY」はいいバランスで作れたんじゃないかなと思います。

─ヴォーカルがのびのびしているのが、いいなと思いました。

自然に歌唱も前回のEPとは違った感じになっていますね。なんていうか、以前よりもファンの層がぐっと広がったというのも大きかったと思います。

─同世代のリスナーから、さらに上にも下にも広がっている感覚ですか。

そうですね。あとは、以前は音楽的なところでは感度の高い人たちに発信をしていこうというのがあったんです。今回は、それもありつつ、どうその幅を広げていくかというのをアルバムでは挑戦したくて、そのキーになるのがこの「FLY」という曲じゃないかなと感じています。シングルを配信した後もそうなんですけど、ライブが違ってきましたね。単純に一緒に歌ってくれたりとか、イントロのギターのリフが流れた瞬間にみんなの温度が上がったりする、そういう瞬間が感じられたので、してやったりというか(笑)。

─そうだったんですね(笑)。確かにいいキャッチーさがありつつ、でもクリエイティヴィティは失っていない、そこは大事にしているだろうなというのは、どの曲でも思いました。

全曲を通じて、バランスはすごく大事にしていて、洋楽的なサウンドのかっこよさと、邦楽である理由というのがしっかりとほしかったので、それは言葉やメロディとか、いろんなもののバランスを考えて曲作りをしました。サウンド面は感度の高い方向がありながらも、言葉やメロディラインで、こういうジャンルの音楽を聴いたことがない人でも、何か引っかかりがあるような作品にするように持っていった感じですね。

─なかなか難しいポイントでもありますね。今、自分なりのそのバランスはつかめていると思いますか。

今回は特に、前回のEPと比べるとジャンルの幅もぐっと広がったし、歌唱や世界観、歌詞の表現方法もガラッと変わったものがあるので、僕自身も新しく世界が広がった感じがありますね。



─また、「空 feat.SALU」はラッパーのSALUさんをフィーチャリングした曲です。ふたりでかけ合う歌詞の世界は、MVでもドラマティックに表現されて、より伝わる内容になってました。曲の制作としてはどんなふうに進みましたか。

これは最初ラッパーを入れる予定はなくて、アルバム曲をというよりはこういう曲を作ってみようかとできた曲なんです。ある程度メロディができたときに、これラップを入れたいですねって話になって、SALUさんを選んだのは、SALUさんってトレンドのフローだったり歌詞の世界観も独特で面白くて、かつポップスに昇華するのがすごく上手いなと思っていたんです。かっこいいこともできつつ、幅広い層に発信できる人というのは、僕がやりたいことにも通じるし、単純に僕自身がファンだったというのもあって今回オファーをしたんです。僕が多分、いちばん好きだなってくらいこの曲は気に入ってますね。

─実際に会って、一緒に曲も作っていったんですか。

本当はもっと前にオファーしようと思っていたんですけど、そのときは面識がなかったんです。何度かお会いして、ライブも見て、やっぱりこの人ヤバいなと思って、オファーをしました。だから、やっと実現したという感じですね。だからもう、曲を投げちゃって、あとは好きにやってくださいっていう(笑)。最初にSALUさんのヴァースをもらった時と、MVが仕上がった時は、涙が出るくらいに自分の感情に入ってきましたね。改めてSALUさんというアーティストのことを好きだなと思いました。

─向井さんのパートはポジティヴに投げかけるメッセージ的なもので、SALUさんのパートはくすぶった心の内を晒すようなものになっていますね。どちらかというとこのSALUさんのパートは、向井さんが歌うべきパートのようにも思っていたんですけど(笑)。でもそのくらい、SALUさんがもどかしい心情的なところをうまく代弁している曲ですね。

別のインタビューでも言われました(笑)。僕はSALUさんから見たら後輩ですけど、後輩が先輩にメッセージを投げかけるみたいな感じになっているというのは、全然意識してなかったんですよね。でも、サウンドのアレンジも相まって、よりエモい感じになっていて、バランス的にはいい作品になったなと思ってます。客演やアレンジにしてもそうですけど、そのアーティストさんとやる意味合いはどうしてもほしくて、今の他のラッパーにはないフローもありつつ、こういうキャッチーでわかりやすい曲だけどダサくないっていう絶妙なバランス感は、SALUさんにしかできないところだなと思いますね。

─トラックとの絡みもいいバランスとなっていますしね。

mabanuaさんは本当に素晴らしくて。mabanuaさんのヒップホップのビートが好きで、もちろん作品もずっと聴いていたんですけど、mabanuaさんも今はメジャーなアーティストやいろんなアーティストを手掛けているのもあって、やっぱりキャッチーに昇華するのが上手いんですよね。でもしっかりとベースには、ルーツを感じるというか。音楽をしっかりと聴いている人でも、ひっかかるアレンジになっていて、このタッグはまちがいなかったなと思いました。

─そして、とてもエモーショナルなタイトル曲「Blue」についてはどうですか。

この曲はいちばん、歌詞に時間がかかりました。EP『24』をリリースしたあとに、“歌詞を書く”ということがよくわからなくなった時期があったんです。これも、阿部(広太郎)さんとの共作なんですけど、なんていうか、自由に書くことを忘れていた時期だったんです。気持ちをすっと、素直に書くようになったきっかけの曲でもありますね。

─それが歌詞の冒頭にある《訳もわからず悔しさが増す》というのは、そのときの気持ちが表れたものだったんですね。

はい。今回のアルバムのコンセプトとしては、ネガティヴからポジティヴに変える気持ちというのがあるんです。一見静かに見えるけど、ちゃんと熱いものを持っているというのを、再確認したというか、歌詞を書くにつれて、自分が書きたいものが明確になったきっかけになりましたね。どの曲も思い入れは強いんですけど、とくに自分自身が悩んでいた時期とか、それを解放するという、今回のアルバム・コンセプトがいちばん色濃く出ている部分だと思います。自分自身を落とし込んでいる曲ということでグッとくるのもあるんですけど、それでも誰かに当てはまればいいなと思ってますね。

─書き方がわからないというのは、こういうことを歌わなきゃいけないんだと囚われてしまったような、自分の勝手な縛りもあったんですか。

多分あったんだと思います。ちょっとこれを言うのはダサいのかなとか、いわゆるJ-R&Bっぽい歌詞にするとか、どこかしら自分でもそういうのがあったのかなっていうのは、このときに感じましたね。

─音楽的にも歌詞的にもいろんな枠を突破して、自由に解き放たれた感覚ですね。

ジャンルという意味では、全部フリーで作っていたんですけど、とくに今回は言葉の使い方や歌詞の書き方もより幅広く書けたと思います。

─サウンド的には英語詞もすんなりと乗りそうですが、日本語詞でそれができたのは、大きなことですね。

僕自身、英語がネイティヴではないというのもあって、素直に感情を落とし込めるのはやっぱり日本語かなっていうのと、前回のEPも音楽的にはとっつきにくいというか、最初はちょっと敷居が高いのかなと思うんですけど、それを取っ払うのは言葉かなって。トラックの部分と歌詞の部分で、いろんな人に引っかかりのあるような、何かひとつでも感じてもらえるものができればいいなと思いましたね。

─ソロのアーティストとしてはいないタイプだからこそ、いわゆるロールモデル的な人もいないし、新しい存在感を打ち出していく難しさと面白さがありますね。

シンガー・ソングライターで、こういうデジタルベースのトラックだったりブラックミュージックをやる人は、最近はそんなにいなかったりますよね。でも僕は、いわゆるR&Bとしても異色であって、かといってバンドシーンからも異色であるという、どこにも属さないけど、どこにも入り込めるようなものが強みと思っているので、そこらへんは自由にやっていこうと思ってます。

─それが自分の強みだと認識したのは、いつ頃ですか。

それはずっとあったと思います。オンリーワンでいたい欲が強いというか、こいつはちょっとちがうよなって言われたいというのは、昔からありましたね。そういうのは子どもの時からあったものじゃないかなと思うんです。

─では、今は居心地がいい状態ですね。

そうですね、スタッフのみんなもそうだし、周りのミュージシャンも僕の居場所をしっかりと作ってくれているので、そこは安心して、これでいいんだって思いながら曲作りはできています。

─先ほど「Blue」はきっかけになった曲だというのがありましたが、アルバムのタイトル『BLUE』にはどんな意味合いを込めたのでしょうか。

多分、ハッピーな人っていろんなことに寛容なイメージですけど、僕は、ネガティヴで自分のなかでコンプレックスがあったり、マイナスな要素がある人ほど、物事に取り組むパワーがより強いものだと感じています。僕自身も完全にハッピーで、みんなを引っ張っていくというよりは、辛さも知ってるから、一緒に這い上がっていこうというタイプの人間なので、そういうマイナスからプラスに変える力と、あとは“青い炎”をテーマにしていて。今、ジャンル的アーティスト的にもサイクルが早くて、どんどん新しいものが出てくるし、一度引っかかりがあってもそれを継続して新しいものを生み出さないと、すぐに忘れられたりしてしまうような状況で、チャンスは誰にでもあるけど、そこで勝負していく難しさがあると思っているんです。それを派手に燃え上がる赤い炎だとすれば、僕は、静かだけど、熱を持っていて、少しの風では消えないような青い炎になりたいという願いを込めて、『BLUE』というタイトルにしました。

─意志のある1stアルバムが完成して、ここからまた大きく動き出せるという期待感がありますが、ライブなども変わってきましたか。

今までは、自分のなかに落とし込んだ曲を聞いて、みんなが自分に当てはめてくれればいいなという感じのマインドだったんですけど、ライブを重ねていくうちに、相手がいることを意識するようになりましたね。「FLY」や「空」もそうですけど、誰にかに向けて発信する大切さと、ライブでもしっかり目を合わせよう、届けようという気持ちが強くなって、そのなかで、次はどういう曲が必要だろうなという気持ちも出てきたんです。ライブは、昨年1年間やっていたものとは全然ちがうくらい変わりました。自分が楽しみながらできるようになったのが、いちばんですけどね。



Interview + Text: 吉羽さおり