MTV BLOG

超能力者 VS 科学者の頭脳戦『レッド・ライト』ロドリゴ・コルテス監督に聞く

2013-02-14


ロバート・デ・ニーロがカリスマ超能力者に扮し、超常現象の嘘を暴こうとするシガーニー・ウィーバーとキリアン・マーフィー演じる科学者チームと頭脳戦を繰り広げる謎解きスリラー『レッド・ライト』が、2月15日より全国で公開される。メガフォンを執ったのは、棺桶に閉じ込められた男を描いた究極のワンシチュエーション・スリラー『リミット』を手掛けた、スペイン出身のロドリゴ・コルテス監督。今作では超能力者と科学者チームの対決を通じて、観客のマインドを最後の最後まで絶妙にコントロールしている。MTV Newsでは、初来日したコルテス監督を直撃。『レッド・ライト』誕生までの経緯や、現場で起きた奇妙なエピソードなど、作品の裏話を教えてもらった。



—『レッド・ライト』は最後まで予測不可能な展開で呆然としました。映画が終わった後も何だか気になって、眠る前にストーリーを思い返してしまいました。

ロドリゴ・コルテス監督: そう言ってくれてとてもうれしいよ。僕は最後まで終わることを抵抗するような映画が好きなんだ。脳内から出て行ってくれないような作品がね。多くの場合、観客は映画が終わるとすぐに忘れ始める。でも中にはどういうわけか、頭の中に留まる作品があるんだ。時間をかけて消化する必要があるような作品だよ。観客は全ての答えを得たと思っていても、次の瞬間、自分が間違っていたことに気づく。疑問を持たせるのはとても大切なことだから、そのような感想を聞くとうれしいんだ。

—前作『リミット』は世界的な成功を収めましたが、今作を制作するにあたって、どのような気持ちで挑みましたか?

監督: 僕は鈍感だから何のプレッシャーも感じなかった。おかげでいつも助かっているよ。知性のなさは意外と便利なものだ(笑)

—『レッド・ライト』のような映画は知性がないと作れませんよ!

監督: それが作れちゃったんだよ(笑)実は『レッド・ライト』の脚本は『リミット』を作る前に書いたものなんだ。だから、作品を選ぶ上で特に迷いはなかった。僕は自分のキャリアにとって何が都合が良いかは考えず、単純に伝えたいことがあるから素直に伝えているだけなんだよ。もしかしたら多少のプレッシャーを感じるべきだったのかもしれないけど、できる限り最高の作品を作ることに専念することにした。少なくとも、その方が健康的だよね。

—『レッド・ライト』はネタバレせずに話すのが難しいタイプの作品ですが、カリスマ的な超能力者と、超常現象のペテンを見抜こうとする科学者チームの対決というアイデアは、どのように浮かんだのですか?

監督: アイデアは一瞬でひらめいたようなものではなく、自然な流れで広がっていった。最初はでっちあげられた超能力について考えるところから始めたんだ。2つの相反するコンセプトが1つになっている。1つは超能力、つまりは魔法、説明できないもので、それは映画にとって完璧なバックグラウンドになる。もう1つはでっちあげ、つまりは人間のつく嘘だ。それにより、触れられる、物質的で具体的なものが生まれる。科学的なアプローチができるんだ。僕はその点に魅了された。

—監督自身、脚本を書く前は超能力などに対して懐疑的だったのですか?

監督: リサーチを終えた今の方が懐疑的な気がするよ(笑)懐疑的ということは、疑問を持つということだからね。自分を懐疑的だと言う人の多くは、実際には否定論者なんだと思う。彼らはただ否定するだけなんだよ。でも本来は懐疑的というのは疑問を持つことであって、何も知らなかったかのように、物事をゼロから熟考することなんだ。そうすれば、物事に対してとてもクリーンなアプローチができる。状況を再評価する必要があるんだ。

—相当のリサーチを要した作品だと思われますが、撮影前にはどのような準備をしたのですか?

監督: 1年半かけて、「超能力者や信者」と「懐疑論者や否定派」の両側からリサーチをしてみた。すると、どちらの“チーム”もとても似たような行動をとっていたんだ。みんな自分たちにリスクを及ぼすことは否定するんだよ。人間は誰しも自分に都合の良いことだけを信じようとすることに気づいた。

—リサーチ中は実際に超能力者に会ったのですか?

監督: ああ、多くの人に会ったよ。彼らについて学び、インタビューもたくさん読んだ。でも目を見張るようなものは何もなかった。僕が目にした全てのことは、単純なマジックのトリックで説明できたんだ。超能力が本当に存在するのかは分からないけど、超常現象を信じるかと言われたら、僕の答えはノーだ。自然を超越することはできないと思うからね。でも超能力は別の問題だ。なぜなら、世の中にはいまだに解明されていない現象があるから。たとえばラジオの高周波は、16世紀には超能力だと考えられていたんだよ。だから、ふさわしいツールに辿り着くまでは、解明できないこともある。

—科学者側の言い分についてはどう思われますか?

監督: 科学は常に進化している。1世紀前には科学的に証明ができなかったことが、今はできている場合も多々ある。科学は進化し続け、証明できることは増えて行くだろう。一部の人にとって、科学は宗教のようなものだ。結局のところ、多くの場合、全ては信念に基づいているんだと思う。人間にとって、自分が信じていることが最も重要なんだ。先に結論が決まっていて、その結論を支えるセオリーを求めたがる。人間の脳みそはそのようにできているんだ。


物理を信奉するマーガレット・マシスン博士役はシガーニー・ウィーバー。

—ロバート・デ・ニーロ、シガーニー・ウィーバー、キリアン・マーフィーなど、今作ではそれぞれの登場人物を描く役者の演技力が際立っていました。どのようなプロセスでキャスティングしたのですか?

監督: 今作のキャスティングについて考えると、もしかしたら超常現象は存在するのかもしれないと思うよ(笑)どうやってこんなキャスティングが実現したのか、説明がつかないからね。多かれ少なかれ、最初はいつもと同じように、理想のキャストのリストを作るところから始めた。それぞれの登場人物に対し、観客が感情移入できるような役者を第1希望から第10希望くらいまで挙げるんだ。常識的に、第7希望くらいが実現すればいいなと考える。第1希望はダメ元で、絶対に無理だろうけど、念のためトライしてみるんだ。でもどういうわけか、今作では第1希望の役者がみんな参加してくれたんだ!

—彼らはどのような理由で出演を決めたのですか?

監督: 誰もがキャラクターや会話、それにたくさんの層からなる綿密な脚本に強い反応を示してくれた。デ・ニーロとはシシリアで、シガーニーとはニューヨークで、そしてキリアンとはロンドンでミーティングをしたんだ。まるで世界ツアーだったよ。どれもとても素晴らしいミーティングだった。お互いを探り合ってね(笑)そして数ヶ月後、みんなで撮影をしていたんだ。本当に何が起こったんだか、訳が分からないよ(笑)

—70年代生まれとのことで、デ・ニーロやシガーニーが出演している作品を観て育ったのではないかと思いますが、スクリーンを通して観ていたスターたちを演出するのはどんな気分でしたか?

監督: それを考え出したら自分に不利になるから、現場では忘れるように心がけていた。最初はまさに“生きる伝説”が目の前にいるわけだけど、2分も経てば、彼らだって同じ人間だと分かる。撮影現場では、彼らの偉業については考えないようにするんだ。もし考え出したら押しつぶされてしまうからね。でもみんなとても温かくてフレンドリーな人たちだったよ。デ・ニーロは40年もトップの俳優でいるにもかかわらず、今でも脚本に書かれた自分のキャラクターを表現ことだけに集中しているんだ。それは感動的だったし、気持ちが少し楽になったよ。

—今作のテーマは観客にたくさんの論議をもたらすと思います。現場ではみんなで超能力について話し合ったりしましたか?

監督: その箱は開けたくなかったんだ(笑)キャラクターに集中してほしかったからね。役者にはそれぞれの登場人物の背景を理解する上で知っておいてほしい情報だけを与えた。与えた情報は役によって全く違ったんだ。シガーニーにはある本を読むように勧めて、キリアンには別の本を勧めた。デ・ニーロとは撮影に入る前に、信じられないかもしれないけどスカイプで話し合ったんだよ(笑)超能力者だけでなく、政治家や心霊治療者、牧師など、さまざまな人たちの声やジェスチャーなどについて話したんだ。テーマに対する個人的な意見は置いておいてね。

—物語の主軸でもある助手のトム・バックリーを演じたキリアン・マーフィーは、特に役にピッタリでしたね。不思議な目力が印象的でした。

監督: 彼はパワフルであり、同時にエレガントでもある、アメイジングな役者だと思う。2つの特性を持った珍しい人だ。演技では時にとても純粋な面を見せる。まるでボーイスカウトのような、幼い表情を持っているんだ。だが、一瞬にして、とても不穏な人物に変身できる。ものすごくダークで、この役に完璧な一面だった。彼はラブコメを一瞬でホラー映画にできるような役者。それはとてもパワフルな素質だと思う。普段はとてもフレンドリーで楽しい人だよ。



—ホラー映画の現場では超常現象が起こったりするとよく聞きますが、『レッド・ライト』の現場で奇妙な出来事はありましたか?

監督: 超常現象は禁じられていたよ(笑)通常は1日あたり10〜12カットを撮影するところを、僕らは40カットも撮影しなければならなかったからね。だから、他のことを考えているわけにはいかなかった。でもおかしな出来事はあったよ。ある晩、オフィスで翌週の撮影の準備をしていたんだ。すると窓に何かがぶつかる大きな音が聞こえた。それは窓にぶちあたった鳥で、死体が床に落ちていた。まるで今作のワンシーンのようにね。脚本は既にできていたから、興味深い偶然だと思った。そして翌日、そのことをキリアンに話したら、同じ時間に彼のホテルの窓にも鳥が突っ込んでいたことが分かった。ストーリーは2つ増え、鳥は2羽減ったといったところだ(笑)

—ついに超常現象を信じる気になりましたか?(笑)

監督: 説明はできないけど、あれは“レッド・ライト”(赤信号、警告)かもね。でも僕らの現場の雰囲気はとても良くて、笑いが絶えなかったよ。時にストーリーがダークであればあるほど、現場の空気は明るいんだ。常にジョークが飛び交っていたし、キャストとの仲も良かった。でも僕が「アクション」と言うと、全てのムードが一変して、ものすごく張りつめた空気になるんだ。

—ベテラン揃いですが、現場でのキャストたちの様子は?

監督: みんなおもしろかったよ。シガーニーはとても皮肉っぽいシャープなユーモアのセンスの持ち主なんだ。デニーロはとても温かい人柄で、シャイというわけではないけれど、口数は少ない。彼が3つ言葉を発すると、それは倍の意味を持つような素晴らしい人だよ。キリアンもとても面白い人だ。僕らはまるで同じ車を運転している相棒のようだった。

—デ・ニーロは出てきた瞬間から、カリスマ超能力者サイモン・シルバーにしか見えませんでした。

監督: 素晴らしいよね。彼には人を引きつける存在感があるんだ。彼を一目見ると、史上最高の超能力者だと信じてしまう。何を演じても史上最高になれる人だよ。何しろロバート・デ・ニーロだからね!

—日本の映画ファンには、どのように『レッド・ライト』を楽しんでほしいですか?

監督: 僕が保障できるのは、観客は自分自身を疑い始めるはずだということ。映画が始まった時点では安心していて、自分で自分の考えをコントロールできると信じている。でも、だんだんその感覚を失っていくだろう。自分自身の知覚を信用できなくなる瞬間が来ると思うよ。自分が理解していると確信していても、必ず裏切られるんだ。

—これから映画を観に行く人に、何か一つ注意を払うべきヒントをあげるとしたら?

監督: 注意を払うのではなく、チケットにお金を払ってほしいな(笑)それは冗談で、僕は何にも注意を払ってほしくないんだ。今作はマジックのトリックだから。どこに注意を払っても、それは間違っていると思うよ。

—まだ全ての答えを得られていないような気分です…もう1度観て、1度目に見逃した全ての“レッド・ライト”を見つけたいです。

監督: 多くの場合、疑問は答えよりも大切なんだ。2度目に観ると、1度目に見逃したたくさんのディテールを発見するだろう。そして、全ての“レッド・ライト”が最初からそこにあったことに気づくんだ。どれをどのように解釈するべきか、自分が何を探していたのかが分からなかっただけでね!



『レッド・ライト』

物理学を信奉するマーガレット・マシスン博士とジョシュのトムは、科学力によって数え切れないほどの超常現象のペテンを見抜き、イカサマ超能力者の嘘を暴き出してきた。そんな彼らの前に、恐るべき強敵が出現する。30年以上も姿をくらませていた超能力者サイモン・シルバーが表舞台に復帰したのだ。やがてマーガレットは因縁あるシルバーの呪いに襲われたかのように倒れ、トムは奇妙な現象に悩まされながらもシルバーの調査に身を投じていく。はたしてシルバーの超能力は本物なのか。そしてシルバーが復活を遂げた真の目的とは…。

監督/脚本/編集/製作:ロドリゴ・コルテス
出演:キリアン・マーフィー、シガーニー・ウィーバー、ロバート・デ・ニーロ、ほか
配給:プレシディオ
2013年2月15日(金)より、TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー!
©2011 VERSUS PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS S.L.(NOSTROMO PICTURES) / VS ENTERTAINMENT LLC

オフィシャルサイト>>

Interview + Text: Nao Machida

10:34

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』アン・リー監督 来日インタビュー

2013-01-25


『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー監督賞に輝いたアン・リー監督の最新作『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』が、本日(1月25日)より全国で公開中だ。原作はブッカー賞を受賞した世界的ベストセラー小説「パイの物語」(ヤン・マーテル著)で、海で嵐に見舞われ、ただ一人生き残った少年パイが、一頭のトラと共に小さな救命ボートで大海原を漂流した227日を描いている。

映像化不可能と思われた奇想天外な物語を3Dを駆使して見事にフィルムに収めたリー監督が、「パイは全ての人を表している」と語るとおり、今作の圧倒的な映像美の奥には、多くの心を揺さぶるであろう哲学的なメッセージが織り込まれている。公開を前に来日した監督がMTV Newsの取材に応じ、作品の見どころや撮影秘話を明かした。映画は2月に発表される第85回アカデミー賞で、作品賞、監督賞を含む計11部門にノミネートされている。



—今回は『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』を携えて来日してくださって、どうもありがとうございます。

アン・リー監督(以下、監督): 喜んで!日本に来るのは大好きだよ。

—今作は視覚的にも精神的にも得るものの多い作品でしたし、まるでパイとトラのリチャード・パーカーと共に、自分もボートに乗って漂流しているような気持ちになりました。

監督: どうもありがとう、それはうれしいね。

—原作を読んだ時に映画化は不可能だと思ったのですが、見事に映像化されていて感動しました。よく「子どもと動物とは仕事をするな」と言われますが、今作には子どもや動物に加えて、大量の水や宗教問題、さらには3D技術と、難しい要素が詰まっています。監督はなぜ今作に挑もうと思ったのですか?

監督: この物語のとりこになってしまったんだ。僕自身、原作を読んだ時は、映画化は到底無理だと思った。それなのに映画化の依頼を受けてから、気になって仕方なかったんだ。取りつかれてしまったんだよ。できれば忘れたかったし、「僕の邪魔をしないでくれ!」という気分だった(笑)でも、なぜか考えるのを止められなかった。今作には難題がぎっしり詰まっているけれど、僕はある日、もし別の次元を使ったら可能性が広がるのではないかと考えた。3Dなら可能かもしれない、とね。僕はときどき、そんな風にひらめくんだ(笑)

—そのような難題の詰まった作品において、最も大変だったことは何ですか?

監督: 最も難しかったことは、どのように物語をまとめるかだったように思う。特に最後のシーンで、観客が映画の世界から冷めることなく、彼にどのように物語を語らせるか、という部分がとても難しかった。原作の本質は、人間が持つ想像力の素晴らしさにあると思う。しかしフィルムメーカーとしての僕らは、感情的な要素や映像に頼ってしまいがちだ。だから今作はある意味、非常に映画向きではない作品なんだと思う。僕は最後のシーンで長いこと行き詰まってしまった。何度か撮り直しをしたぐらいだよ。書き直しではダメなんだ。それよりも、俳優を使っていろんなことを試す必要があった。

全ては彼らの演技のおかげだよ。役者が台詞にいかに没頭しているか、どのように台詞を話すか…それはとても難しいことなんだ。パイは全ての人を表しているから、役者は万人のために哲学的な台詞を代弁しなければならないわけだからね。彼は指導者のような話し方はしないし、とても一般的に話をするんだ。でも、映画であるからには感情を表現し、人格化しなければならない。僕はもう少しで今作を完成できないところだったよ(笑)だが、あるテイクを観た時に「これだ」と思ったんだ。台詞の言い方も完璧だったし、全てが完全だった。スラージ・シャルマが素晴らしい役者であるということだけでなく、たくさんのオプションを試すことが必要だったんだ。トライ&エラーの繰り返しだよ。3Dに関しては誰からもアドバイスをもらうことができなかったし、とにかく試し続けるしかなかった。


3000人以上の中から選ばれたスラージ・シャルマは演技初体験。当時は高校生で、撮影セットで18歳の誕生日を迎えた。

—3Dや視覚効果といった最新技術はもちろん素晴らしかったですが、おっしゃるとおり、今作では役者の演技力が本当に素晴らしかったです。特に今作が演技初体験だという16歳のパイを演じたスラージ・シャルマさんが印象的でしたが、何か撮影中に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

監督: 僕は彼に会った瞬間、パイだと感じたんだ。それが彼を抜擢した最大の理由だよ。当初、僕の中にはパイの具体的なキャラクター設定がなかったのだが、スラージに会って、どのように映画を作っていくべきか分かった。彼は深い瞳の持ち主で、ソウルフルなルックスをしている。プロの監督として、カメラ映りも良いだろうと思った。そこでテストをしてみたところ、役者としても天才肌だと分かった。ある状況を与えられると、そこから抜け出せなくなるような貴重な才能の持ち主なんだ。彼の思い込みの能力はとてつもないものだよ。パイが独白するシーンの台本を読ませると、最後には泣き出し、震え出した。僕は金山を掘り当てたのだと確信したよ(笑)

特に印象的だったのは最後の3ヶ月。僕にとって、それは非常に特別な体験になった。スタントは使わず、全てのシーンに映っているのは他の誰でもない彼だ。彼は弱音も吐かず、ケガもせず、病気にもならなかった。もしケガでもしていたら撮影できなかったわけだが、彼はとても頼りになる役者だった。最後の3ヶ月は順撮りしたから、パイの旅と並行して、彼はどんどん痩せていった。現場では誰にも彼と話をさせず、わざと孤独にした。彼は少しずつスピリチュアルになっていき、頬はこけ、目は落ちくぼんで、内なる狂気と闘っていたよ。それは17歳の少年にとって、とても大きな試練だった。クルー全員、撮影全体が彼を頼っていたからね。

僕が彼に伝えたのは、「言うとおりにやればいい、でも、いつでも応じられる準備はしておいてほしい」ということ。毎日現場入りしたら、パイを演じる準備をしておいてほしい、とね。見事にやり遂げた彼を見て、本当に感動したよ。彼は素晴らしい若者だ。撮影前の3ヶ月間の訓練で、僕は彼に演技の個人指導をした。それにデリーで育ち、1度も海を見たことのなかった彼は泳げなかったから、水泳のレッスンも必要だった(笑)決して最も自制心の強いタイプというわけではないが、映画人としての素質が感じられる。現場に入るとアドレナリン・ラッシュを感じて、ハイになるんだ。天才肌だよ。

彼を演出していると、まるで小さなブッダのようで、僕は彼が前世で経験したたくさんのことを思い出させているような感覚になった。彼との撮影は素晴らしい、有意義な体験となったよ。彼を通じて、そもそもなぜ自分たちが映画を作りたかったのか、初心に立ち戻ることができた。彼の母親は僕を先生と呼んでいたのだが(笑)、彼に教えることで、僕も多くを学ぶことができた。

—彼は今後も俳優業を続けるのでしょうか?

監督: ああ、映画製作に関わる仕事がしたいと言っているよ。俳優でも監督でもいいから、とにかく映画製作の現場にいたいそうだ。


海上のシーンは、波を作る機能を備えた水量640万リットルの巨大なタンクで撮影された。

—MTVを観ている多くの人は、劇中のパイと同世代だと思います。日本では長引く不況もあり、若者が夢や希望を抱くのが容易ではない時代が続いているのですが、日本の若者には今作からどのようなことを感じ取ってほしいですか?

監督: 希望と想像力を失わないでほしい。それに、生身の人間と交流すること。パソコン上の交流は、どちらかというと見せかけだと思うよ(笑)僕はたとえどんな状況でも、証明できないことに対して希望や信頼を抱くことは大切だと思っている。それはとても重要なことだ。それに、クリエイティブであること。そうすることによって、辛い状況からも自分を見出せるはずだ。



—哲学的なメッセージがたくさん含まれた作品だと思いますが、監督自身が今作から得た最も大きなメッセージは何ですか?

監督: これはさまざまな方向に解釈できる作品だと思っている。僕は観客があらゆる角度から観ることになるだろうと念頭に置いて、今作を作っていた。それと同時に、とてもシンプルな冒険物語でもあるわけで、この映画は本当に難しい作品だった。

僕自身の考えに絞るとすると、今作の最も大きなメッセージは、物語を伝える力の素晴らしさだろう。人生は筋の通ったものではなく、我々は自然を理解するには小さ過ぎる存在だ。しかし、人は想像力や物語を伝えることによって、正気を保つことができる。長い物語を語っている時、人はあまり孤独を感じないものだ。たとえそれが空想だったとしても、物語を伝える力は、とても必要なものなんだと思う。

だから僕は証明できないことを大切にしたいと思っている。自分にとって、それは盲信なんだ。もちろん、僕はスピリチュアルに考えがちだ(笑)神が外的な存在なのか、内なる存在なのか、それを証明するものはない。それでも僕は、神とコミュニケーションを図ることは大切だと考えているよ。



『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
1960年代初めのインド・ポンディシェリで生まれたパイは、父親が経営する動物園でさまざまな生き物と触れ合い、勉強や初恋に一喜一憂する少年だった。ところが1976年、16歳になったパイの人生は根底からひっくり返ってしまう。カナダへの移住を決めた両親、動物園の動物たち、そしてパイが乗り込んだ日本の貨物船が、洋上で嵐に見舞われて沈没したのだ。生き残ったのは、必死の思いで救命ボートに避難したパイと、足を折ったシマウマ、ハイエナ、オランウータン、そしてベンガルトラのリチャード・パーカーだけだった。まもなくシマウマらが相次いで命を落とし、パイは体重200キロを超すトラとともに、果てしなく広大な太平洋をさまようことになる。わずかな非常食で当面の飢えをしのぎ、家族を亡くした悲しみと孤独にも耐えるパイは、どのようにして腹を空かせた獰猛なトラの襲撃をかわし、この絶望的な極限状況を生き抜いていくのか。今では大人になったパイがカナダ人のライターに語って聞かせたその先の物語は、まさに事実は小説より奇なり、227日間にも及ぶ想像を絶する漂流生活が待ちうけていた…。

監督:アン・リー(ブロークバック・マウンテン/グリーン・デスティニー)
出演:スラージ・ジャルマ、イルファン・カーン、ジェラール・ドパルデュー、ほか
原作:ヤン・マーテル「パイの物語」
配給:20世紀フォックス映画
2013年1月25日(金)、TOHOシネマズ日劇ほか全国公開 <3D/2D同時上映>
© 2012 TWENTIETH CENTURY FOX FILM

オフィシャルサイト>>

<関連ニュース>
1/11: 第85回アカデミー賞 『リンカーン』が最多12部門にノミネートされる

Interview + Text: Nao Machida

00:00

『ホビット 思いがけない冒険』 ピーター・ジャクソン監督&キャスト来日記者会見レポート

2012-12-14
『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』で、アカデミー賞史上最多となる11部門を獲得したピーター・ジャクソン監督が、「ロード・オブ・ザ・リング」で描かれた中つ国の60年前を舞台にした「ホビットの冒険」の映像化に挑んだ、世界中の映画ファンが待ち望む新作『ホビット 思いがけない冒険』。12月14日の公開を前に、監督とキャストのマーティン・フリーマン、アンディ・サーキス、リチャード・アーミティッジ、イライジャ・ウッドが来日した。ここでは、都内で行われた来日記者会見の模様をレポート。帰ってきた空前の世界観を舞台に繰り広げられる新たな冒険を映画館で目撃する前に、じっくりとお楽しみください。



—ご挨拶をお願いします。

ピーター・ジャクソン監督(以下、監督): 皆さん、こんにちは。ご来場どうもありがとう。(会見前の試写会では)1秒48フレームのHFR(ハイフレームレート)3D版でご覧いただけてうれしいです。皆さんからの素晴らしい歓迎に感謝します。今日はどんな質問でも答えるつもりだよ。

マーティン・フリーマン(ビルボ・バギンズ役、以下、マーティン): こんにちは。日本や東京は大好きなので、また来日できてうれしいです。皆さんが作品を気に入ってくれることを願っています。たくさんの愛情を注いだ今作を皆さんと共有できることをうれしく思っています。

アンディ・サーキス(ゴラム役/第2版監督、以下、アンディ): オハヨウゴザイマス!ゴラムだったら、こう言うだろうな…(ゴラムの声で)オハヨウゴザイマス!僕らは日本が大好きなので、また来日できてうれしいよ。『ロード・オブ・ザ・リング』三部作や『キングコング』の時も、日本ではとても楽しい時間を過ごしたんだ。この素晴らしい作品を皆さんと共有できて最高です。お招きいただいて、どうもありがとう。



リチャード・アーミティッジ(トーリン・オーケンシールド役、以下、リチャード): コンニチハ!僕は2000年に東京に来たことがあるのですが、2012年にこうやって素晴らしい人々と今作を携えて再来日できたことを、とても誇りに思います。今作は非常に忠誠心にあふれた作品で、自分にとっても大きな作品でしたが、日本の人にも大変気に入っていただけるのではないかと思います。アリガトウ。

イライジャ・ウッド(フロド役、以下、イライジャ): コンニチハ(笑)日本には『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで来日した時の良い思い出があります。日本に来ることは、僕らにとって非常に特別なことなのです。日本や東京は大好きですし、今回は冒険の序章を日本の皆さんに観ていただけることに、とても興奮しています。

—J.R.R.トールキンの書いた原作を見事に映像化されていましたが、トールキンが作り上げた物語への想いをお聞かせください。

監督: 『ホビット』は『ロード・オブ・ザ・リング』の物語の60年前を舞台としているので、中には観客がすでに結果を知っている出来事も登場するんだ。最初に『ロード・オブ・ザ・リング』を撮影してから12年経って、『ホビット』でいろいろなことが説明されているということが興味深いと思う。

—監督がこの作品で1番目指していたことは?

監督: それがどんな作品であれ、僕は逃避のために映画を作るんだ。映画にはミステリーやロマンスを求めている。子どもの頃から映画が大好きで、さまざまな種類の作品があるけれど、僕が好きな映画、作りたい映画は、全く違う世界に連れて行ってくれるような作品や、キャラクターに感情移入できる作品なんだ。皆さんにも逃避できるような体験をしてほしくて、だからこそ、ファンタジー作品が最もふさわしいと思っている。トールキンの物語は最もふさわしい作品なんだ。僕らが知っているようでいて、実はとてもエキゾチックな世界観が広がっている作品だと思う。トロールのようなクリーチャーがたくさん出てきて、まさにおとぎ話のような世界観がとても好きなんだ。

—8年ぶりの壮大なプロジェクトに出演できる喜びをお聞かせください。

アンディ: 再びニュージーランドに戻って『ホビット』を撮影するのは、素晴らしい体験だった。当時の友人たちやクルーには子どもが増えていたよ(笑)それに新たなキャストはみんな驚異的に努力家で楽しい人たちで、本当に参加できて良かった。今作では再びゴラム役を演じる機会に恵まれただけでなく、ピーターが僕が興味を持っていた演出にも参加させてくれて、第2班の監督を任せてくれたんだ。1年半、新しいファミリー、新しい冒険を楽しんだと同時に、非常にチャレンジングで学びの多いときを過ごすことができた。みんなが150パーセント出し切って、本当に楽しい映画を作ることができたと思う。

イライジャ: アンディが今言ったように、本当に素晴らしい体験だったよ。今作での彼らの冒険は、『ロード・オブ・ザ・リング』で旅の仲間が経験したことの写し鏡のようなものなんだ。再び撮影現場に戻ると、愛情を持ったスタッフが集結して作っていて、その様子を再び見ることができただけでも、とても美しい体験だった。『ホビット』はさらにスケールが大きくなっているけれど、現場の雰囲気はいっそう親密なものだったんだ。関わっている人々の心がつながっているということが感じられたし、再びフロドとして作品に参加できたことは、僕にとって贈り物のような経験だったよ。もちろん、イアン・マッケラン演じるガンダルフや、イアン・ホルムに再会できたり、他の旧友や家族に再会できたこともうれしかった。さらに新しいキャストに会えたこと、彼らを通じてホビットの冒険を体験できるということを、とてもうれしく思っているんだ。

リチャード: 『ロード・オブ・ザ・リング』の大ファンだし、ピーター・ジャクソン監督の作るような作品は今後リメイクされる可能性はないだろうから、僕が演じたトーリンは唯一のトーリンになると思う。そういったことを考えて、責任の重さ、少し怖い気持ち、多くの期待を持って、ニュージーランドに行ったということは、僕の人生の中で最も思い出深い経験になるだろう。とても貴重な18ヶ月をみんなと一緒に過ごすことができたんだ。

マーティン: まさにみんなが言ったとおりだよ。とても親密な、ファミリーのような現場だったんだ。世界で1番大掛かりな映画の現場であるにもかかわらず、まるで学生が映画制作をしているかのような、和気あいあいとした雰囲気だった。もちろん、18ヶ月を費やした作品が皆さんに気に入ってもらえることを願っているけれど、演じるということの根本にあるのは、自分たちが演じることを愛していて、楽しんでいるからなんだ。自分自身、出演して良かったと感じられる作品ができたと思っているよ。



—マーティンとリチャードをキャスティングした理由は?

監督: キャスティングで大切なのは真実味と正直さ。マーティンはフリをするのではなく、真実味を感じさせるのがとても上手い。これは特にファンタジーにおいて大切なことなんだ。人間ではないホビットやドワーフを演じているので、観客が共感できなければ話にならない。マーティンはドラマティック・アクターで、本当に真剣な演技をする人なのだけれど、ビルボ役に不可欠なハートとユーモアも持ち合わせているんだ。ビルボはヒーローになりたくないのにこんな状況に置かれ、ドワーフとつきあいたくないのに一緒に過ごさなければならないからね。マーティンはそういった状況から生まれるコメディを出すのがとても上手いし、ドラマティック・アクターでユーモアも出せるというのは、とても稀に見る才能なんだ。監督としてすごくありがたいのは、6、7回のテイクを撮ると、彼は毎回違うことをしてくれて、毎回新鮮で、その全てが素晴らしい。どれをとっても良いので、編集室では悩まされたよ。

今作でビルボがハートの部分を担っているとすれば、トーリンはソウルの部分を担っている。トーリン役のオーディションでは多くの役者に会ったが、リチャードは王としての高貴な姿や、大変な戦いに自分は挑めるのだろうかという葛藤が表せる人だと思った。そして、とても静かな姿勢で観る者を引きつける才能に長けている。画面に出ていると、なぜか彼を見たくなる、そういう要素を持った人だと思う。

—『ロード・オブ・ザ・リング』3部作を作り終えた後で、『ホビット』を作ろうと決めたきっかけを教えてください。

監督: 正直言って、他の人に作ってほしくなかったことが理由だよ。『ロード・オブ・ザ・リング』を撮り終えて、再び中つ国に行くチャンス、ニュージーランドを舞台にするチャンスは、やはり『ホビット』だと思った。ただ、2つのスタジオが権利を持っていたので、なかなか制作できないという状況があった。でも彼らが作る気になったら、我々はそれに関わりたいと思っていたし、今作は本当に楽しい経験だったんだ。今までの映画作りの中で1番楽しかったと思う。



—ビルボとトーリンの友情が少しずつ深まっていく様子が見どころだと思ったのですが、マーティンさんとリチャードさんは共演してみていかがでしたか?

マーティン: リチャードは一緒に仕事をしていて、とてもやりやすい人。すごく静かな人でありながら、とても強い決断力を持っている。自分を含め、他の人の仕事の進め方にも敬意を表してくれて、芯の強い人でありながら、とても謙虚なんだ。毎日シーンを撮影していると、彼の方から何かをもたらしてくれるような人だよ。数人でジムに行った時、トレーナーにしごかれて僕は失神寸前だったのに、彼は冷静だった。恐らく大変だったとは思うのだけれど、それをあまり見せずに静かにトレーニングに耐えていた。どちらかというとストイックな人だと思う。毎日大変なこともあれば、ホームシックになることもあったけれど、その積み重ねがこの18ヶ月だったんだ。リチャードはほとんど最初からそういった姿勢だったし、それはトーリン役ととても合っていたと思う。人間としても素晴らしくて、一緒に居て楽しい人だったよ。

リチャード: 自分は酒を飲むと翌日の撮影に影響が出ると分かっていたので、撮影中はあまり人付き合いの良い人間ではなくて、申し訳ない気持ちもあったよ。マーティンは素晴らしい役者。そしてすごく面白い人なんだ。僕の撮影の初日に、マーティンは既に2週間ほど撮影していたんだけど、まるでジャズのミュージシャンのように、自分の役を通じてさまざまなことを試している姿を見た。それは本当に見事で、僕はそんな彼を称賛する気持ちを抱いて撮影に入ったんだ。

—1秒48コマのHFRで撮影した理由は?

監督: 1927年、それまでの無声映画にサウンドがついた。無声映画時代は手回しだったので、フレームのスピードは回す人によって異なっていたんだ。サウンドが入ることによって、一定のスピードにしないと音が安定しないという状況が生まれた。ただ、35ミリフィルムは非常に高価だったので、音を安定させるために45フレームに決まって、それがスタンダードになってしまったんだ。何千台ものプロジェクターやカメラが作られてしまったからね。近年デジタルシネマということになって、映写機やカメラも変わり、フレームレートを変えることができた。変えることで、映像にリアリティが増して、本物の世界により近づくことができるんだ。3Dとハイフレームは非常に良いコンビネーションで、魔法の世界観をそのまま見せられる。

もう1つの理由は、最近はなかなか映画館に足を運んでもらえないということ。iPhoneやiPadでも映画は観られるからね。だから、『ホビット』のような大作に新しいテクノロジーを取り入れることで、人々を映画館に呼び戻せれば、という気持ちもあって作ったんだ。



『ホビット 思いがけない冒険』
ホビット族のビルボ・バギンズは魔法使いのガンダルフに誘われ、13人のドワーフたちと共に、恐るべきドラゴン“スマウグ”に奪われたドワーフの王国を取り戻すという危険な冒険に加わる。彼らは凶暴はアクマイヌ、そして謎の魔術師たちがうごめく危険な荒野や、ゴブリンが潜むトンネルを抜けて行かなければならない。ビルボはそこで、彼の人生を変えてしまう生き物ゴラムと出会い、彼には知る由もない中つ国の運命を握る<指輪>を手に入れる…。

監督:ピーター・ジャクソン
出演:イアン・マッケラン、マーティン・フリーマン、リチャード・アーミティッジ、ケイト・ブランシェット、イライジャ・ウッド、アンディ・サーキス、ほか
12月14日(金)3D/2D同時公開
© 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.

オフィシャルサイト>>

Text: Nao Machida

15:34

BLOG SEARCH

PROFILE

  • ブログの説明
    MTV NEWSのニュースプレゼンター&スタッフが、現場から最新ニュースや取材の裏話をレポート!
  • ライタープロフィール
    最新の音楽や映画情報を毎日お届けするMTV NEWSの制作スタッフです。

ENTRIES

CATEGORIES

ARCHIVES

FEEDS