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『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』アン・リー監督 来日インタビュー

2013-01-25


『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー監督賞に輝いたアン・リー監督の最新作『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』が、本日(1月25日)より全国で公開中だ。原作はブッカー賞を受賞した世界的ベストセラー小説「パイの物語」(ヤン・マーテル著)で、海で嵐に見舞われ、ただ一人生き残った少年パイが、一頭のトラと共に小さな救命ボートで大海原を漂流した227日を描いている。

映像化不可能と思われた奇想天外な物語を3Dを駆使して見事にフィルムに収めたリー監督が、「パイは全ての人を表している」と語るとおり、今作の圧倒的な映像美の奥には、多くの心を揺さぶるであろう哲学的なメッセージが織り込まれている。公開を前に来日した監督がMTV Newsの取材に応じ、作品の見どころや撮影秘話を明かした。映画は2月に発表される第85回アカデミー賞で、作品賞、監督賞を含む計11部門にノミネートされている。



—今回は『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』を携えて来日してくださって、どうもありがとうございます。

アン・リー監督(以下、監督): 喜んで!日本に来るのは大好きだよ。

—今作は視覚的にも精神的にも得るものの多い作品でしたし、まるでパイとトラのリチャード・パーカーと共に、自分もボートに乗って漂流しているような気持ちになりました。

監督: どうもありがとう、それはうれしいね。

—原作を読んだ時に映画化は不可能だと思ったのですが、見事に映像化されていて感動しました。よく「子どもと動物とは仕事をするな」と言われますが、今作には子どもや動物に加えて、大量の水や宗教問題、さらには3D技術と、難しい要素が詰まっています。監督はなぜ今作に挑もうと思ったのですか?

監督: この物語のとりこになってしまったんだ。僕自身、原作を読んだ時は、映画化は到底無理だと思った。それなのに映画化の依頼を受けてから、気になって仕方なかったんだ。取りつかれてしまったんだよ。できれば忘れたかったし、「僕の邪魔をしないでくれ!」という気分だった(笑)でも、なぜか考えるのを止められなかった。今作には難題がぎっしり詰まっているけれど、僕はある日、もし別の次元を使ったら可能性が広がるのではないかと考えた。3Dなら可能かもしれない、とね。僕はときどき、そんな風にひらめくんだ(笑)

—そのような難題の詰まった作品において、最も大変だったことは何ですか?

監督: 最も難しかったことは、どのように物語をまとめるかだったように思う。特に最後のシーンで、観客が映画の世界から冷めることなく、彼にどのように物語を語らせるか、という部分がとても難しかった。原作の本質は、人間が持つ想像力の素晴らしさにあると思う。しかしフィルムメーカーとしての僕らは、感情的な要素や映像に頼ってしまいがちだ。だから今作はある意味、非常に映画向きではない作品なんだと思う。僕は最後のシーンで長いこと行き詰まってしまった。何度か撮り直しをしたぐらいだよ。書き直しではダメなんだ。それよりも、俳優を使っていろんなことを試す必要があった。

全ては彼らの演技のおかげだよ。役者が台詞にいかに没頭しているか、どのように台詞を話すか…それはとても難しいことなんだ。パイは全ての人を表しているから、役者は万人のために哲学的な台詞を代弁しなければならないわけだからね。彼は指導者のような話し方はしないし、とても一般的に話をするんだ。でも、映画であるからには感情を表現し、人格化しなければならない。僕はもう少しで今作を完成できないところだったよ(笑)だが、あるテイクを観た時に「これだ」と思ったんだ。台詞の言い方も完璧だったし、全てが完全だった。スラージ・シャルマが素晴らしい役者であるということだけでなく、たくさんのオプションを試すことが必要だったんだ。トライ&エラーの繰り返しだよ。3Dに関しては誰からもアドバイスをもらうことができなかったし、とにかく試し続けるしかなかった。


3000人以上の中から選ばれたスラージ・シャルマは演技初体験。当時は高校生で、撮影セットで18歳の誕生日を迎えた。

—3Dや視覚効果といった最新技術はもちろん素晴らしかったですが、おっしゃるとおり、今作では役者の演技力が本当に素晴らしかったです。特に今作が演技初体験だという16歳のパイを演じたスラージ・シャルマさんが印象的でしたが、何か撮影中に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

監督: 僕は彼に会った瞬間、パイだと感じたんだ。それが彼を抜擢した最大の理由だよ。当初、僕の中にはパイの具体的なキャラクター設定がなかったのだが、スラージに会って、どのように映画を作っていくべきか分かった。彼は深い瞳の持ち主で、ソウルフルなルックスをしている。プロの監督として、カメラ映りも良いだろうと思った。そこでテストをしてみたところ、役者としても天才肌だと分かった。ある状況を与えられると、そこから抜け出せなくなるような貴重な才能の持ち主なんだ。彼の思い込みの能力はとてつもないものだよ。パイが独白するシーンの台本を読ませると、最後には泣き出し、震え出した。僕は金山を掘り当てたのだと確信したよ(笑)

特に印象的だったのは最後の3ヶ月。僕にとって、それは非常に特別な体験になった。スタントは使わず、全てのシーンに映っているのは他の誰でもない彼だ。彼は弱音も吐かず、ケガもせず、病気にもならなかった。もしケガでもしていたら撮影できなかったわけだが、彼はとても頼りになる役者だった。最後の3ヶ月は順撮りしたから、パイの旅と並行して、彼はどんどん痩せていった。現場では誰にも彼と話をさせず、わざと孤独にした。彼は少しずつスピリチュアルになっていき、頬はこけ、目は落ちくぼんで、内なる狂気と闘っていたよ。それは17歳の少年にとって、とても大きな試練だった。クルー全員、撮影全体が彼を頼っていたからね。

僕が彼に伝えたのは、「言うとおりにやればいい、でも、いつでも応じられる準備はしておいてほしい」ということ。毎日現場入りしたら、パイを演じる準備をしておいてほしい、とね。見事にやり遂げた彼を見て、本当に感動したよ。彼は素晴らしい若者だ。撮影前の3ヶ月間の訓練で、僕は彼に演技の個人指導をした。それにデリーで育ち、1度も海を見たことのなかった彼は泳げなかったから、水泳のレッスンも必要だった(笑)決して最も自制心の強いタイプというわけではないが、映画人としての素質が感じられる。現場に入るとアドレナリン・ラッシュを感じて、ハイになるんだ。天才肌だよ。

彼を演出していると、まるで小さなブッダのようで、僕は彼が前世で経験したたくさんのことを思い出させているような感覚になった。彼との撮影は素晴らしい、有意義な体験となったよ。彼を通じて、そもそもなぜ自分たちが映画を作りたかったのか、初心に立ち戻ることができた。彼の母親は僕を先生と呼んでいたのだが(笑)、彼に教えることで、僕も多くを学ぶことができた。

—彼は今後も俳優業を続けるのでしょうか?

監督: ああ、映画製作に関わる仕事がしたいと言っているよ。俳優でも監督でもいいから、とにかく映画製作の現場にいたいそうだ。


海上のシーンは、波を作る機能を備えた水量640万リットルの巨大なタンクで撮影された。

—MTVを観ている多くの人は、劇中のパイと同世代だと思います。日本では長引く不況もあり、若者が夢や希望を抱くのが容易ではない時代が続いているのですが、日本の若者には今作からどのようなことを感じ取ってほしいですか?

監督: 希望と想像力を失わないでほしい。それに、生身の人間と交流すること。パソコン上の交流は、どちらかというと見せかけだと思うよ(笑)僕はたとえどんな状況でも、証明できないことに対して希望や信頼を抱くことは大切だと思っている。それはとても重要なことだ。それに、クリエイティブであること。そうすることによって、辛い状況からも自分を見出せるはずだ。



—哲学的なメッセージがたくさん含まれた作品だと思いますが、監督自身が今作から得た最も大きなメッセージは何ですか?

監督: これはさまざまな方向に解釈できる作品だと思っている。僕は観客があらゆる角度から観ることになるだろうと念頭に置いて、今作を作っていた。それと同時に、とてもシンプルな冒険物語でもあるわけで、この映画は本当に難しい作品だった。

僕自身の考えに絞るとすると、今作の最も大きなメッセージは、物語を伝える力の素晴らしさだろう。人生は筋の通ったものではなく、我々は自然を理解するには小さ過ぎる存在だ。しかし、人は想像力や物語を伝えることによって、正気を保つことができる。長い物語を語っている時、人はあまり孤独を感じないものだ。たとえそれが空想だったとしても、物語を伝える力は、とても必要なものなんだと思う。

だから僕は証明できないことを大切にしたいと思っている。自分にとって、それは盲信なんだ。もちろん、僕はスピリチュアルに考えがちだ(笑)神が外的な存在なのか、内なる存在なのか、それを証明するものはない。それでも僕は、神とコミュニケーションを図ることは大切だと考えているよ。



『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
1960年代初めのインド・ポンディシェリで生まれたパイは、父親が経営する動物園でさまざまな生き物と触れ合い、勉強や初恋に一喜一憂する少年だった。ところが1976年、16歳になったパイの人生は根底からひっくり返ってしまう。カナダへの移住を決めた両親、動物園の動物たち、そしてパイが乗り込んだ日本の貨物船が、洋上で嵐に見舞われて沈没したのだ。生き残ったのは、必死の思いで救命ボートに避難したパイと、足を折ったシマウマ、ハイエナ、オランウータン、そしてベンガルトラのリチャード・パーカーだけだった。まもなくシマウマらが相次いで命を落とし、パイは体重200キロを超すトラとともに、果てしなく広大な太平洋をさまようことになる。わずかな非常食で当面の飢えをしのぎ、家族を亡くした悲しみと孤独にも耐えるパイは、どのようにして腹を空かせた獰猛なトラの襲撃をかわし、この絶望的な極限状況を生き抜いていくのか。今では大人になったパイがカナダ人のライターに語って聞かせたその先の物語は、まさに事実は小説より奇なり、227日間にも及ぶ想像を絶する漂流生活が待ちうけていた…。

監督:アン・リー(ブロークバック・マウンテン/グリーン・デスティニー)
出演:スラージ・ジャルマ、イルファン・カーン、ジェラール・ドパルデュー、ほか
原作:ヤン・マーテル「パイの物語」
配給:20世紀フォックス映画
2013年1月25日(金)、TOHOシネマズ日劇ほか全国公開 <3D/2D同時上映>
© 2012 TWENTIETH CENTURY FOX FILM

オフィシャルサイト>>

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1/11: 第85回アカデミー賞 『リンカーン』が最多12部門にノミネートされる

Interview + Text: Nao Machida

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