『ドラゴン・タトゥーの女』デヴィッド・フィンチャー&ルーニー・マーラ来日会見
2012-02-01
『セブン』や『ファイトクラブ』、『ソーシャル・ネットワーク』など、数々の名作を生み出した鬼才、デヴィッド・フィンチャーの話題の新作『ドラゴン・タトゥーの女』。全世界で6500万部以上を売り上げたミステリー小説を原作にフィンチャーがメガフォンを執ることが報じられてから、キャスティングやポスター・予告編の発表など、世界中の読者や映画ファンが製作の進展を見守ってきた。映画は全米で昨年12月に公開され、大ヒットを記録。2月26日(アメリカ時間)に開催される第84回アカデミーでは、主演女優賞(ルーニー・マーラ)を含む5部門にノミネートされている。
そして今月、フィンチャー版『ドラゴン・タトゥーの女』がついに日本上陸を果たす。公開を前に来日したフィンチャーと主演のルーニー・マーラが1月31日に都内で開催された記者会見に出席。集まった多数の記者からの質問に答えた。

—まずは一言ご挨拶をお願いします。
デヴィッド・フィンチャー監督(以下、DF): 今日は来てくれてありがとう。(前夜のジャパン・プレミアでは)あんなに長いランウェイを歩く予定だったなんて知らなかったんだ。モデル業は何年もやっていなかったから(笑)歩き方を忘れていたよ。
ルーニー・マーラ(以下、RM): ハーイ!
—ルーニーさんは今回が初来日ですか?
RM: そうです。まだちゃんと見ていないのだけれど、今のところ東京がとても気に入っています。今日は午後に少し時間があるので街に出てみたいと思っています。楽しみにしています。
—楽しみな食べ物や場所はありますか?
RM: 特にはないです。とにかく来日できただけでワクワクしています。

1月30日に東京国際フォーラムにて開催されたジャパン・プレミアにて。
—原作が全世界でベストセラーになり、スウェーデンで既に映画化されている『ドラゴン・タトゥーの女』を、あえて再び映画化しようと思った理由を教えてください。スウェーデン版の映画とはどのような部分で差別化を図りましたか?
DF: 正直な話、スウェーデン版は1度しか観たことがない。そこまで入念に観ていないので、正確にどこが違うかを語ることはできないんだ。脚本が大きく違うと聞いているが、具体的にどこが違うかはわからない。今作では原作の小説に集中して、本を読んだときに自分がロケーションや登場人物に対して抱いた思いを忠実に映像化することを心がけた。だからスウェーデン版の映画と演技等の面でどうやって差別化するかということは、当初から考えていなかった。
—ルーニーさんが今回演じたリスベット・サランデル(アウトローな天才ハッカー)は、ご自身からはかけ離れた役だと思うのですが、なぜこの役を引き受けようと思ったのですか? 彼女のどのような部分に共感を持ったのですか?
RM: 原作の3部作を全て読んで、多くの読者と同様に私もこのキャラクターが大好きになったの。彼女のことをすごく理解できたような気がしたし、このキャラクターにどのように命を吹き込むべきかを考えたときに、自分にはそれが分かったと思えた。彼女にはさまざまな部分で共感するわ。ほとんどの人が人生のある時点で誤解されたり、のけ者にされたりといった経験をしたことがあると思う。私はそういった部分で彼女に共感したの。それに若い女優にとってこういった役は滅多に出会えるものではないから、大きなチャンスだと思って、ぜひ演じたいと思ったわ。

素顔のルーニーはシャイな印象。
—原作ファンも多くキャラクター設定が完成しているリスベットですが、今回の映画ではとても魅力的に映っているように思いました。監督はどのような独自性をリスベットに加えたのですか?
DF: そうは思わないな。独自性は加えていない。リスベットがどのような人物なのかという点では、3冊の原作に膨大な量の情報が詰まっている。僕は映画化する上で、原作の登場人物が何を考えているかについてよく考えるようにした。映画では登場人物の頭の中を表現するのがとても難しいんだ。特定の状況を作り出し、彼らがそこでどう振る舞うかを見せることで、どのような人物かをわかりやすく伝えることに努めた。そういった状況を考えてドラマ化するのが自分の仕事だと思う。だから今作ではどのような要素を加えるかの問題ではなく、どちらかというと引き算のプロセスだったよ。砂金をふるいにかけてリスベットの光り輝くものを見つけ出し、彼女の頭の中で何が起こっているかを表現する上での手がかりとなる行動を探していった。「クリエイト」するというよりも、「解釈」するという作業だったように思う。原作に登場する興味深い状況を映像に収めきれない場合は、そういった行動を別のシーンに盛り込んでリスベットという人物が理解されやすいように心がけた…次の質問にはもう少し短く答えるようにするよ。

劇中では見事にリスベットに大変身!
—リスベット役に挑むにあたって、外見的にはどのようなアプローチで臨んだのですか?
RM: リスベットの外見を作り上げる作業は、私とデヴィッドと衣装デザイナーのトリッシュ・サマーヴィル、それにヘアメイクさんやプロデューサーなど、多くの人によるコラボレーションだったわ。ルックスについて、髪型について、服装についてなど、全てをよく話し合って決めたの。彼女の見た目については原作にはっきりと書いてあるから、原作のどういう部分を取り入れて、新たにどんなことを加えるかなど、何度も話し合ったわ。
—スウェーデンでの撮影にこだわったのは、原作のどのような部分にひかれたからですか?
DF: 映画の舞台を他の土地に移そうとは考えたこともなかった。これはとてもスウェーデン的なストーリーだし、あの土地は登場人物や彼らの行動に色濃く影響していると思う。スウェーデンを舞台にした原作があれだけヒットしたわけだから、今作も同じようにスウェーデンを舞台にしたいと考えた。
—スウェーデンでの長期ロケで得られたことは?
DF: 雪は無料で使いたい放題だったよ(笑)ストックホルムはとても独特の景観がある街だし、他のどことも似ていない地下鉄でも撮影できた。電車の路線が街の中央で円を描いているのも撮れたし、それに最後のシーンに登場するミカエルのアパートの近くの石畳。あれは絵に描いたように美しくて、信じられないほど画面映えがしたよ。そしてあのありえない寒さ! 映画を観るとスウェーデンの凍てつくような寒さが感じられると思う。

撮影は極寒のスウェーデンで行われた。
—オープニングでレッド・ツェッペリンの「移民の歌(Immigrant Song)」のカヴァーを使った理由を教えてください。『ソーシャル・ネットワーク』ではエンディングにザ・ビートルズの楽曲(「Baby, You're A Rich Man」)を使用していましたが、世界中でよく知られたメロディ・ラインを使用する意図はあるのですか?
DF: 世界的に知られていない楽曲も使っているよ(笑) 「移民の歌」はバンに乗ってロケハン中にiPhoneで音楽を聴いていたらレッド・ツェッペリンのコレクションが流れてきて、この曲を女性ボーカルが歌ったらオープニングに良いんじゃないかなと思った。それくらい単純な理由だ。時にインスピレーションとは、こんなにバカげたところから得られるものさ。そのアイデアをそのまま実現したんだ。『ソーシャル・ネットワーク』の最後でザ・ビートルズを使ったのは、アーロンと話し合って、あの場面にはあの曲がピッタリだと思ったから。なぜ良く知られた曲を使うか? うーん。今作ではエンヤの楽曲も使ったけど、それは殺人のトーンを創り上げる上で良い曲だと思って。それにABBAは使いたくなかったからね(笑)
—『ソーシャル・ネットワーク』では100回くらいテイクを撮ったそうですが、今作ではそのような経験はありましたか? あるとしたら何回くらい?
RM: デヴィッドは全てのシーンでたくさんのテイクを撮る監督なの。そこには何の不思議もないと思うわ。テイク数を数えたことはなかったし…
DF: 54回はあったよ。
RM: 私は数えてなかったし、それが当たり前だと思って演じていたから、特にどのシーンでテイクが多かったかは覚えていないわ。それに『ソーシャル・ネットワーク』の冒頭のシーンは脚本にして6ページもあったし…
DF: 9ページだよ。
RM: 9ページを5分に収めないといけなかったの。1日半で9ページだから、実際には大したことはないわ。
DF: 9ページで9つのセットアップがあったので、それを10回ずつ撮ったとしても90回なわけだから。とにかく長いシーンだったというだけさ(笑) 今作では天候に左右されることが多くて、必然的にテイク数が増えることは多かった。たとえば夜橋に向かってリスベットがバイクを飛ばすスタント・シーンでは、午前4時に撮影して気温が低かったし、体感温度はさらに低かったからね。凍らないように橋には塩をまいたのだが、どうしても凍ってしまって、氷を溶かすために火を使ったりしながら撮影していた。そういった状況だとテイク数など数えていられないんだ。1週間も撮影しているような気分だったよ。

—ミカエル役のダニエル・クレイグが他の役者では考えられないほどにはまり役でしたが、どのようにキャスティングされたのですか? 共演した感想は?
DF: ダニエルは最初に決定したキャストだった。ミカエルは絶対に彼に演じてほしかったんだ。多くの人にはジェームズ・ボンドとして知られているけれど、僕はそれ以前から彼のことを知っていて、幅広い役を演じることのできる才能豊かな役者だと思っていた。この役には特定の要素を求めていたんだ。まずは男らしさ。同時にたくさんの女性と友情関係を築ける人物だから良い聞き手である必要があった。そしてウィットに富んでいる人。そういった部分を全て網羅した彼は完璧だった。
RM: ダニエルとの共演はアメイジングだったわ。才能豊かな俳優で、忍耐強くて、私にいろんなことを教えてくれた。私は今作でこれまでにやったことのないようないろんなことに挑戦しなければならなかったから、彼のような人が近くにいてくれて心強かったの。ユーモアのセンスも抜群だし、一緒にいてとても楽しい人だった。
—ルーニーさんは女優としてのみならず、今ではファッション・アイコンとしても大きな注目を集めていらっしゃいますが、26歳の女性としてそのような注目を受けることについてのお気持ちを聞かせてください。
RM: あまり考えないようにしているわ。自分が世間からそういう風に見られているとは考えないようにしているし、そういった状況にあまり気を取られずマイペースな生き方を続けているの。

—オープニングのシーンで、人がコールタールに絡まってしまうような印象的な映像が出てきますが、どういう意図であのようなイメージを製作されたのですか?
DF: 前提としてあの素晴らしい曲(「移民の歌」)をオープニング・シークエンスで使おうと決めていて、友人のアニメーターにリスベットにとっての悪夢を映像化してほしいと注文した。観客にそれを観せることによって映画の世界観が表現できるようにね。抽象的で、ちょっと滑稽なものでもいいと思っていた。そしてピアノに使う漆のような黒い液体から人物が飛び出すというアイデアが浮かんだ。そこから、あのシークエンスでディレクターを務めたティム・ミラーが75案のパターンを提案してくれて、それを25案まで絞った。そして最終的なものを選んだ時点で、彼に「8週間で作って」と告げたんだ(笑)

—原作は三部作ですが、次回作もフィンチャー監督が製作するのですか?
DF: 残り2作品を製作するかどうか決める前に、たくさんの人に今作を見てもらわなければ。すごく大勢の人にね!(会場笑)
---

『ドラゴン・タトゥーの女』
凍てつくようなスウェーデンの冬。ジャーナリスト、ミカエル・ブルムクヴィストのもとに、財閥一家の大富豪から奇妙な依頼が舞い込んでくる。40年前の少女失踪事件の真実を暴き、犯人を捜してほしいというのだ。ミカエルは背中に龍の入れ墨(ドラゴン・タトゥー)を入れたアウトローな天才ハッカー、リスベット・サランデルと共に猟奇事件の真相に迫る…。
監督: デヴィッド・フィンチャー
脚色: スティーヴン・ザイリアン
原作: スティーグ・ラーソン
キャスト: ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ、クリストファー・プラマー、ほか
2月10日(金)TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー!
オフィシャルサイト>>
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ダニエル・クレイグ 『ドラゴン・タトゥーの女』は「大人の映画」
Text: Nao Machida
そして今月、フィンチャー版『ドラゴン・タトゥーの女』がついに日本上陸を果たす。公開を前に来日したフィンチャーと主演のルーニー・マーラが1月31日に都内で開催された記者会見に出席。集まった多数の記者からの質問に答えた。

—まずは一言ご挨拶をお願いします。
デヴィッド・フィンチャー監督(以下、DF): 今日は来てくれてありがとう。(前夜のジャパン・プレミアでは)あんなに長いランウェイを歩く予定だったなんて知らなかったんだ。モデル業は何年もやっていなかったから(笑)歩き方を忘れていたよ。
ルーニー・マーラ(以下、RM): ハーイ!
—ルーニーさんは今回が初来日ですか?
RM: そうです。まだちゃんと見ていないのだけれど、今のところ東京がとても気に入っています。今日は午後に少し時間があるので街に出てみたいと思っています。楽しみにしています。
—楽しみな食べ物や場所はありますか?
RM: 特にはないです。とにかく来日できただけでワクワクしています。

1月30日に東京国際フォーラムにて開催されたジャパン・プレミアにて。
—原作が全世界でベストセラーになり、スウェーデンで既に映画化されている『ドラゴン・タトゥーの女』を、あえて再び映画化しようと思った理由を教えてください。スウェーデン版の映画とはどのような部分で差別化を図りましたか?
DF: 正直な話、スウェーデン版は1度しか観たことがない。そこまで入念に観ていないので、正確にどこが違うかを語ることはできないんだ。脚本が大きく違うと聞いているが、具体的にどこが違うかはわからない。今作では原作の小説に集中して、本を読んだときに自分がロケーションや登場人物に対して抱いた思いを忠実に映像化することを心がけた。だからスウェーデン版の映画と演技等の面でどうやって差別化するかということは、当初から考えていなかった。
—ルーニーさんが今回演じたリスベット・サランデル(アウトローな天才ハッカー)は、ご自身からはかけ離れた役だと思うのですが、なぜこの役を引き受けようと思ったのですか? 彼女のどのような部分に共感を持ったのですか?
RM: 原作の3部作を全て読んで、多くの読者と同様に私もこのキャラクターが大好きになったの。彼女のことをすごく理解できたような気がしたし、このキャラクターにどのように命を吹き込むべきかを考えたときに、自分にはそれが分かったと思えた。彼女にはさまざまな部分で共感するわ。ほとんどの人が人生のある時点で誤解されたり、のけ者にされたりといった経験をしたことがあると思う。私はそういった部分で彼女に共感したの。それに若い女優にとってこういった役は滅多に出会えるものではないから、大きなチャンスだと思って、ぜひ演じたいと思ったわ。

素顔のルーニーはシャイな印象。
—原作ファンも多くキャラクター設定が完成しているリスベットですが、今回の映画ではとても魅力的に映っているように思いました。監督はどのような独自性をリスベットに加えたのですか?
DF: そうは思わないな。独自性は加えていない。リスベットがどのような人物なのかという点では、3冊の原作に膨大な量の情報が詰まっている。僕は映画化する上で、原作の登場人物が何を考えているかについてよく考えるようにした。映画では登場人物の頭の中を表現するのがとても難しいんだ。特定の状況を作り出し、彼らがそこでどう振る舞うかを見せることで、どのような人物かをわかりやすく伝えることに努めた。そういった状況を考えてドラマ化するのが自分の仕事だと思う。だから今作ではどのような要素を加えるかの問題ではなく、どちらかというと引き算のプロセスだったよ。砂金をふるいにかけてリスベットの光り輝くものを見つけ出し、彼女の頭の中で何が起こっているかを表現する上での手がかりとなる行動を探していった。「クリエイト」するというよりも、「解釈」するという作業だったように思う。原作に登場する興味深い状況を映像に収めきれない場合は、そういった行動を別のシーンに盛り込んでリスベットという人物が理解されやすいように心がけた…次の質問にはもう少し短く答えるようにするよ。

劇中では見事にリスベットに大変身!
—リスベット役に挑むにあたって、外見的にはどのようなアプローチで臨んだのですか?
RM: リスベットの外見を作り上げる作業は、私とデヴィッドと衣装デザイナーのトリッシュ・サマーヴィル、それにヘアメイクさんやプロデューサーなど、多くの人によるコラボレーションだったわ。ルックスについて、髪型について、服装についてなど、全てをよく話し合って決めたの。彼女の見た目については原作にはっきりと書いてあるから、原作のどういう部分を取り入れて、新たにどんなことを加えるかなど、何度も話し合ったわ。
—スウェーデンでの撮影にこだわったのは、原作のどのような部分にひかれたからですか?
DF: 映画の舞台を他の土地に移そうとは考えたこともなかった。これはとてもスウェーデン的なストーリーだし、あの土地は登場人物や彼らの行動に色濃く影響していると思う。スウェーデンを舞台にした原作があれだけヒットしたわけだから、今作も同じようにスウェーデンを舞台にしたいと考えた。
—スウェーデンでの長期ロケで得られたことは?
DF: 雪は無料で使いたい放題だったよ(笑)ストックホルムはとても独特の景観がある街だし、他のどことも似ていない地下鉄でも撮影できた。電車の路線が街の中央で円を描いているのも撮れたし、それに最後のシーンに登場するミカエルのアパートの近くの石畳。あれは絵に描いたように美しくて、信じられないほど画面映えがしたよ。そしてあのありえない寒さ! 映画を観るとスウェーデンの凍てつくような寒さが感じられると思う。

撮影は極寒のスウェーデンで行われた。
—オープニングでレッド・ツェッペリンの「移民の歌(Immigrant Song)」のカヴァーを使った理由を教えてください。『ソーシャル・ネットワーク』ではエンディングにザ・ビートルズの楽曲(「Baby, You're A Rich Man」)を使用していましたが、世界中でよく知られたメロディ・ラインを使用する意図はあるのですか?
DF: 世界的に知られていない楽曲も使っているよ(笑) 「移民の歌」はバンに乗ってロケハン中にiPhoneで音楽を聴いていたらレッド・ツェッペリンのコレクションが流れてきて、この曲を女性ボーカルが歌ったらオープニングに良いんじゃないかなと思った。それくらい単純な理由だ。時にインスピレーションとは、こんなにバカげたところから得られるものさ。そのアイデアをそのまま実現したんだ。『ソーシャル・ネットワーク』の最後でザ・ビートルズを使ったのは、アーロンと話し合って、あの場面にはあの曲がピッタリだと思ったから。なぜ良く知られた曲を使うか? うーん。今作ではエンヤの楽曲も使ったけど、それは殺人のトーンを創り上げる上で良い曲だと思って。それにABBAは使いたくなかったからね(笑)
—『ソーシャル・ネットワーク』では100回くらいテイクを撮ったそうですが、今作ではそのような経験はありましたか? あるとしたら何回くらい?
RM: デヴィッドは全てのシーンでたくさんのテイクを撮る監督なの。そこには何の不思議もないと思うわ。テイク数を数えたことはなかったし…
DF: 54回はあったよ。
RM: 私は数えてなかったし、それが当たり前だと思って演じていたから、特にどのシーンでテイクが多かったかは覚えていないわ。それに『ソーシャル・ネットワーク』の冒頭のシーンは脚本にして6ページもあったし…
DF: 9ページだよ。
RM: 9ページを5分に収めないといけなかったの。1日半で9ページだから、実際には大したことはないわ。
DF: 9ページで9つのセットアップがあったので、それを10回ずつ撮ったとしても90回なわけだから。とにかく長いシーンだったというだけさ(笑) 今作では天候に左右されることが多くて、必然的にテイク数が増えることは多かった。たとえば夜橋に向かってリスベットがバイクを飛ばすスタント・シーンでは、午前4時に撮影して気温が低かったし、体感温度はさらに低かったからね。凍らないように橋には塩をまいたのだが、どうしても凍ってしまって、氷を溶かすために火を使ったりしながら撮影していた。そういった状況だとテイク数など数えていられないんだ。1週間も撮影しているような気分だったよ。

—ミカエル役のダニエル・クレイグが他の役者では考えられないほどにはまり役でしたが、どのようにキャスティングされたのですか? 共演した感想は?
DF: ダニエルは最初に決定したキャストだった。ミカエルは絶対に彼に演じてほしかったんだ。多くの人にはジェームズ・ボンドとして知られているけれど、僕はそれ以前から彼のことを知っていて、幅広い役を演じることのできる才能豊かな役者だと思っていた。この役には特定の要素を求めていたんだ。まずは男らしさ。同時にたくさんの女性と友情関係を築ける人物だから良い聞き手である必要があった。そしてウィットに富んでいる人。そういった部分を全て網羅した彼は完璧だった。
RM: ダニエルとの共演はアメイジングだったわ。才能豊かな俳優で、忍耐強くて、私にいろんなことを教えてくれた。私は今作でこれまでにやったことのないようないろんなことに挑戦しなければならなかったから、彼のような人が近くにいてくれて心強かったの。ユーモアのセンスも抜群だし、一緒にいてとても楽しい人だった。
—ルーニーさんは女優としてのみならず、今ではファッション・アイコンとしても大きな注目を集めていらっしゃいますが、26歳の女性としてそのような注目を受けることについてのお気持ちを聞かせてください。
RM: あまり考えないようにしているわ。自分が世間からそういう風に見られているとは考えないようにしているし、そういった状況にあまり気を取られずマイペースな生き方を続けているの。

—オープニングのシーンで、人がコールタールに絡まってしまうような印象的な映像が出てきますが、どういう意図であのようなイメージを製作されたのですか?
DF: 前提としてあの素晴らしい曲(「移民の歌」)をオープニング・シークエンスで使おうと決めていて、友人のアニメーターにリスベットにとっての悪夢を映像化してほしいと注文した。観客にそれを観せることによって映画の世界観が表現できるようにね。抽象的で、ちょっと滑稽なものでもいいと思っていた。そしてピアノに使う漆のような黒い液体から人物が飛び出すというアイデアが浮かんだ。そこから、あのシークエンスでディレクターを務めたティム・ミラーが75案のパターンを提案してくれて、それを25案まで絞った。そして最終的なものを選んだ時点で、彼に「8週間で作って」と告げたんだ(笑)

—原作は三部作ですが、次回作もフィンチャー監督が製作するのですか?
DF: 残り2作品を製作するかどうか決める前に、たくさんの人に今作を見てもらわなければ。すごく大勢の人にね!(会場笑)
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『ドラゴン・タトゥーの女』
凍てつくようなスウェーデンの冬。ジャーナリスト、ミカエル・ブルムクヴィストのもとに、財閥一家の大富豪から奇妙な依頼が舞い込んでくる。40年前の少女失踪事件の真実を暴き、犯人を捜してほしいというのだ。ミカエルは背中に龍の入れ墨(ドラゴン・タトゥー)を入れたアウトローな天才ハッカー、リスベット・サランデルと共に猟奇事件の真相に迫る…。
監督: デヴィッド・フィンチャー
脚色: スティーヴン・ザイリアン
原作: スティーグ・ラーソン
キャスト: ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ、クリストファー・プラマー、ほか
2月10日(金)TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー!
オフィシャルサイト>>
関連ニュース:
トレント・レズナーとカレン・Oがツェッペリンをカヴァー
『ドラゴン・タトゥーの女』 ダニエル・クレイグがルーニー・マーラを絶賛
『ドラゴン・タトゥーの女』がH&Mとコラボ
トレント・レズナー、『ドラゴン・タトゥーの女』サントラ詳細を公開
ダニエル・クレイグ 『ドラゴン・タトゥーの女』は「大人の映画」
Text: Nao Machida
セイント・ヴィンセントのライヴ写真です
2012-01-31
先日こちらのブログで紹介したUSインディ界の歌姫セイント・ヴィンセントから、東京・渋谷duo music exchangeにて1月10日に行われたライヴの模様を収めた写真が到着しました。普段のアニーさんとはまた違った表情がステキです。




Photos: 久保憲司
セイント・ヴィンセントのインタビューはこちら>>




Photos: 久保憲司
セイント・ヴィンセントのインタビューはこちら>>
USインディ界の歌姫、セイント・ヴィンセント来日インタビュー
2012-01-26
2012年の幕開けと共にアメリカ・ニューヨークからセイント・ヴィンセントことアニー・クラークがやって来た。あのベックやアーケイド・ファイア、グリズリー・ベアなど、音楽シーンからの支持率も高い注目の女性アーティストだ。かつてはギタリストとしてポリフォニック・スプリーやスフィアン・スティーヴンスのツアーに参加していたという彼女は、1月10日に都内で初の来日公演を実現。ミュージックビデオや写真で見るクールな美女のイメージとは裏腹に、超絶なギタープレイで日本のファンを圧倒し、しまいにはギターを弾きながらフロアにダイヴして「犬神家の一族」状態に! ライヴの翌日、一体どんな人なんだろう…と楽しみ半分、不安半分でアニーに会ってきました。

—昨夜のライヴ、素晴らしかったです。音源ももちろん素晴らしいのですが、ライヴ・パフォーマンスは想像を超えていて驚きました。
セイント・ヴィンセント(以下、SV): ありがとう!楽しんでくれて嬉しいわ。
—ステージでは今回が3度目の来日とおっしゃっていましたね。
SV: うん。初来日は15、6歳の頃。タック&パティというジャズ・デュオをやっている叔父と叔母がいて、彼らのローディとして来日したの。
—15歳の時に?
SV: そう(笑)楽屋に花が飾ってあるか、機材がそろっているかとかチェックしたり、サウンドチェックの時間を確認したりね。そのときは3週間も滞在して、日本が大好きになったわ。福岡と大阪と東京でライヴをして、素晴らしい思い出よ。初来日で京都のお寺に行ったことは強烈に覚えているの。それまでに見たことのないような場所だったし、今でもああいう場所は他では見たことがないわ。すごくゴージャスよね。残念ながら、今回の来日では自由時間がないけど。
—2度目の来日はポリフォニック・スプリーですか?
SV: 2度目はスフィアン・スティーヴンスの来日公演よ。ポリフォニック・スプリーがSUMMER SONICで来日したときは、私はまだ加入していなかったの。スフィアンと2008年に来日したのが2度目…もう4年も経ったなんて信じられないわ!
—そして今回はセイント・ヴィンセントとしての初来日ですね。
SV: ライヴは最高に楽しかったわ。本当に素晴らしい時間を過ごすことができた。オーディエンスのみんなも楽しんでくれていたらいいんだけど。日本のオーディエンスは最高だったわ。
—もちろん楽しんだと思いますよ。あなたのバックバンドには日本人のメンバーがいらっしゃいますね。
SV: トーコ・ヤスダね、彼女は最高!
—ステージではあなたの通訳も務めていましたね(笑)
SV: そうなの! すごく嬉しかった。ライヴ前に「MCの通訳をしてくれる?」って訊いたら、彼女は「何を話すつもりなの?」って心配していたんだけど、「即興でやろうよ、即興で」って言ったの(笑)素晴らしい通訳だったよね。トーコはとても優秀なミュージシャンで、イーナンというバンドで長年にわたってベースを弾いているの。ブロンド・レッド・ヘッドでも活動していたわ。とにかく最高にクールな人。
—今回一緒に来日したバンドで常にツアーをまわっているのですか?
SV: 今回のバンドは、実は比較的新しいバンドなの。ソロ・アーティストの良い点は、プロジェクトごとに違うミュージシャンと一緒に仕事ができること。今回のバンドではヘヴィに叩けるドラマーが不可欠で、キーボードは2人必要だった。ドラマーのマット・ジョンソンはジェフ・バックリーのアルバム『Grace』でもドラムを演奏していた人なの。あのアルバムを初めて聴いたときのことは忘れないわ…17年前に! そんなに時が経ったなんて信じられないわね。あれは本当に素晴らしいアルバムよね。とにかく、このバンドはまだ新しいの。去年の8月からリハーサルを始めたのよ。みんな素晴らしいプレーヤーだわ。

—ライヴではギターを弾きながらフロアにダイヴしていて驚きました。
SV: きっとお客さんは、まさか自分たちがモッシュピットに居るとは思っていなかったよね。ライヴをやっていると時にあまりに没頭してしまって、お客さんと触れ合いたくなってしまうの(笑) オーディエンスは一体何が起こっているのかわかっていなかったと思う。私はヒールを履いていたんだけど、ステージから柵まで1メートルくらい離れていたのよ。もし正気だったら「やめておこう」って思っていたはず。ヒールで幅の細い手すりからお客さんの中にダイヴするなんてクレイジーよね。でもやっちゃった。
—後ろから観ていたら、あなたの両足が宙に浮いているのが見えました(笑)
SV: すごく楽しかった、やって良かったわ(笑)ヨガをやっているからケガもしなかったしね。
—ステージではギターだけではなく、テルミンもかき鳴らしていましたね。
SV: たぶん壊したと思う(笑)
—ご自身の楽曲以外にも、ポップ・グループの「She Is Beyond Good and Evil」をカヴァーしていましたが、あの曲にまつわる思い出をお聞かせください。
SV: あの曲にまつわる1番の思い出は、ロンドンで実際にポップ・グループのマーク・スチュワートと一緒に演奏したこと。ずっとレコードで聴いていた彼の声が急に自分の耳に入ってきて、すごかったわ。信じられなかった。本当にクレイジーだった。あれはクールな思い出よ。
—ライヴではギターの演奏スタイルがとてもユニークでしたが、何歳の頃から弾いているのですか?
SV: 12歳よ。
—他に演奏できる楽器は?まずはテルミンですよね。
SV: もちろんテルミンね、 実は「ハッピー・バースデー」しか弾けないんだけど(笑) 昔はメタルのカヴァーバンドでベースを演奏していたの。
—メタルのカヴァーバンド!?
SV: うん、アイアン・メイデンとかスレイヤーとかメタリカとかが好きな時期があったんだ。13歳〜15歳くらいかな。他にはピアノも弾けるの。
—メディアはあなたの音楽スタイルを「チャンバー・ロック」とか「インディー・ロック」とかいろいろな言葉で表現していますが、あなたはご自分の音楽をどう表現しますか?
SV: 難しいな〜。「牙の生えたポップ・ソング」かな(笑)
—先ほどもおっしゃっていたように、ポリフォニック・スプリーやスフィアン・スティーヴンスで演奏してきたとのことですが、なぜセイント・ヴィンセントとしての活動を始めたのですか?
SV: 実はポリフォニック・スプリーに居たときには、すでにファースト・アルバム『Marry Me』を制作していたの。私は常に自分の音楽を作っていて、ソロ・アーティストになりたいと思っていたわ。ラッキーなことに、ソロになる前に他のバンドで見習い体験ができたというだけ。ポリフォニック・スプリーではローブを着て汗だくになっていたわ(笑)あのローブ、すごく暑いのよ! 私はギブソンSGを弾いていたの。
—セイント・ヴィンセントという名前の由来を教えてください。
SV: ニック・ケイヴの大ファンなの。アルバム『Abattoir Blues/The Lyre of Orpheus』に「There She Goes, My Beautiful World」っていう曲が収録されているんだけど、その中に「Dylan Thomas died drunk in St. Vincent's hospital(ディラン・トーマスは酔っぱらってセイント・ヴィンセント病院で死んだ)」という歌詞が出てくるのよ。私はディラン・トーマスも大好きで、そこから名前を取ったの。

—日本でも昨年11月にリリースされた最新アルバム『Strange Mercy』は、シアトルで曲作りを行ったそうですね?
SV: ええ、曲は全てシアトルで書いたの。レコーディングはジョン・コングルトンと一緒に行ったんだけど、シアトルにはたった独りで、「孤独実験」として行ったのよ。テクノロジーのデトックスをするためにね。
—実験は成功しましたか?
SV: うん、かなりうまくいったんじゃないかな。滞在中に良いアイデアが浮かんだし。ちょっと悲痛な体験だったけれど、世の中には炭鉱で働いている人だっているんだもの、曲作りなんてたいしたことではないわ。
—なぜシアトルを選んだのですか?
SV: 友人でデス・キャブ・フォー・キューティーのメンバー、ジェイソン・マックガーが、シアトルに所有していたスタジオを売る直前で、ちょうど1ヶ月だけ空いていたから使わせてもらったの。でも寂しかったわ! 友だちはいないし、ほとんど誰とも話していなくて…3週目に入る頃には、お金を払ってでも誰かに一緒に食事をしてほしかったくらい。ホテルの受付の人に話しかけてしまうくらい寂しかったの。「ワインを飲みに行くんだけど、どう?」とか、「何をしているの?」とかね(笑) 1ヶ月くらい滞在して、アルバムの大半の曲を書き上げることができた。寂しかったけど生産性の高い日々だったわ。
—今作のリリックは、とても私的なものが多いですよね。
SV: 私はあらゆるところからインスピレーションを受けるの。たとえば「Surgeon」では、マリリン・モンローの日記の一節を引用したわ。彼女が演技のコーチだったリー・ストラスバーグのことを書いた文章よ。メソッド演技法のパイオニアと言われている人ね。常に父親的存在を求めていたマリリン・モンローにとって、リー・ストラスバーグがそういった存在だった時期があるようなの。日記には「Best finest surgeon, Lee Strasberg, come cut me open(最も有能な執刀医、リー・ストラスバーグよ、私を切り開いて)」と書かれていた。そのフレーズはすごく私に響いたの。歌ったときにうまくいかないから、リリックでは「リー・ストラスバーグ」っていう部分は消したわ。バックコーラスだったらできたのかもね。ラッパーに「リー・ストラスバーグ!」ってラップしてもらえばよかった(笑)

—ラッパーといえば、キッド・カディとコラボレートした曲(「MANIAC」)がありましたよね。
SV: うん、でもコラボレーションというよりも、彼の曲に私の曲がサンプリングされたという感じね。もちろん、私が許可した上でのことよ(笑)
—「Cruel」のミュージックビデオはダークなユーモアに溢れていて最高でした。スーパーマーケットで誘拐されて、父子家庭の母親にされたあげく、裏庭に埋められてしまうというストーリーは、本当に“Cruel(残酷)”ですね。
SV: 本当よね(笑)あのミュージックビデオはテリー・タイムリーっていうディレクター・デュオと一緒に制作したの。ビデオのアイデアは彼らが考えたのよ。「Actor Out of Work」と「Marrow」も彼らの作品なの。
—撮影はいかがでしたか?
SV: 3日間にわたって1日20時間くらい撮影したわ。あのビデオはかなり複雑だから、けっこう大変だった。ビデオで私が放り込まれる裏庭の巨大な穴は、ほとんど9歳の子役の女の子が掘ったのよ(笑) 彼女は素晴らしかったわ。キャシディっていう子で、アメリカですごく人気が上昇している「Toddler in Tiaras」っていう番組にも出演しているの。すごい子役なんだけど、あの穴を掘ってくれたわ(笑)
—あの子はビデオでの演技も良かったですよね、恐いほど無表情で。
SV: すごく上手よね。良い意味で恐ろしかったわ。ダークなちびっ子ね。あの穴に落とされた瞬間、彼女がほくそ笑んだの! ワクワクしていたみたい。面白かったわ(笑)
—アルバムがここ日本でもリリースされて、昨夜のような反応を得られたことについてはどう思いますか?
SV: すごく嬉しかったわ。オーディエンスの世代も幅広いみたいだし、自分の音楽にさまざまな人が共感してくれることは、とても嬉しいことよ。日本のファンはみんな礼儀正しくて、うるさく絡んでくるような人もいないし(笑)ライヴの後に何人かのファンと話すことができたんだけど、プレゼントを持ってきてくれたの! 日本の人は本当に温かくもてなしてくれるわね。タック&パティのファンもそうだったわ。お花とかクッキーとかハンカチやスカーフまで持って来てくれて、すごく嬉しかった。
—今後の予定は? フェスなどで再来日する予定はありますか?
SV: かもね。いつかは必ず再来日するわ。また来日できる日をとっても楽しみにしているの。アメリカに帰国したら、ニューヨークでデヴィッド・バーンと制作中のコラボレーション・アルバムを仕上げる予定よ。9月にはリリースできると思う。そのアルバムが完成したら、その後は永遠にツアーが続くから忙しくなるわ。
—日本のファンにメッセージをお願いします。
SV: コンニチハ、またはコンバンハ。あなたがこれを読んでいる時間によるわね。今回は来日させてくれてありがとう。素晴らしい旅だったわ!
Photos: Kenta Terunuma
Interview + Text: Nao Machida

セイント・ヴィンセント
ニューヨーク在住のアニー・クラークことセイント・ヴィンセントはポリフォニック・スプリーやスフィアン・スティーヴンスのツアー・メンバーとして活動を開始。2006年ベガーズ・バンケットと契約を結びソロ・アーティストとしてアーケイド・ファイアの前座をつとめる。4ADからリリースされた2nd アルバム『Actor』はピッチフォークでベスト・ニュー・ミュージックに選ばれる等、世界中で高い評価を得た。2011年11月待望のニューアルバム『Strange Mercy』をリリース。
オフィシャルサイト(英語)>>
日本オフィシャルサイト>>
1/10の東京・渋谷duo music exchange公演のライヴ写真はこちら>>

—昨夜のライヴ、素晴らしかったです。音源ももちろん素晴らしいのですが、ライヴ・パフォーマンスは想像を超えていて驚きました。
セイント・ヴィンセント(以下、SV): ありがとう!楽しんでくれて嬉しいわ。
—ステージでは今回が3度目の来日とおっしゃっていましたね。
SV: うん。初来日は15、6歳の頃。タック&パティというジャズ・デュオをやっている叔父と叔母がいて、彼らのローディとして来日したの。
—15歳の時に?
SV: そう(笑)楽屋に花が飾ってあるか、機材がそろっているかとかチェックしたり、サウンドチェックの時間を確認したりね。そのときは3週間も滞在して、日本が大好きになったわ。福岡と大阪と東京でライヴをして、素晴らしい思い出よ。初来日で京都のお寺に行ったことは強烈に覚えているの。それまでに見たことのないような場所だったし、今でもああいう場所は他では見たことがないわ。すごくゴージャスよね。残念ながら、今回の来日では自由時間がないけど。
—2度目の来日はポリフォニック・スプリーですか?
SV: 2度目はスフィアン・スティーヴンスの来日公演よ。ポリフォニック・スプリーがSUMMER SONICで来日したときは、私はまだ加入していなかったの。スフィアンと2008年に来日したのが2度目…もう4年も経ったなんて信じられないわ!
—そして今回はセイント・ヴィンセントとしての初来日ですね。
SV: ライヴは最高に楽しかったわ。本当に素晴らしい時間を過ごすことができた。オーディエンスのみんなも楽しんでくれていたらいいんだけど。日本のオーディエンスは最高だったわ。
—もちろん楽しんだと思いますよ。あなたのバックバンドには日本人のメンバーがいらっしゃいますね。
SV: トーコ・ヤスダね、彼女は最高!
—ステージではあなたの通訳も務めていましたね(笑)
SV: そうなの! すごく嬉しかった。ライヴ前に「MCの通訳をしてくれる?」って訊いたら、彼女は「何を話すつもりなの?」って心配していたんだけど、「即興でやろうよ、即興で」って言ったの(笑)素晴らしい通訳だったよね。トーコはとても優秀なミュージシャンで、イーナンというバンドで長年にわたってベースを弾いているの。ブロンド・レッド・ヘッドでも活動していたわ。とにかく最高にクールな人。
—今回一緒に来日したバンドで常にツアーをまわっているのですか?
SV: 今回のバンドは、実は比較的新しいバンドなの。ソロ・アーティストの良い点は、プロジェクトごとに違うミュージシャンと一緒に仕事ができること。今回のバンドではヘヴィに叩けるドラマーが不可欠で、キーボードは2人必要だった。ドラマーのマット・ジョンソンはジェフ・バックリーのアルバム『Grace』でもドラムを演奏していた人なの。あのアルバムを初めて聴いたときのことは忘れないわ…17年前に! そんなに時が経ったなんて信じられないわね。あれは本当に素晴らしいアルバムよね。とにかく、このバンドはまだ新しいの。去年の8月からリハーサルを始めたのよ。みんな素晴らしいプレーヤーだわ。

—ライヴではギターを弾きながらフロアにダイヴしていて驚きました。
SV: きっとお客さんは、まさか自分たちがモッシュピットに居るとは思っていなかったよね。ライヴをやっていると時にあまりに没頭してしまって、お客さんと触れ合いたくなってしまうの(笑) オーディエンスは一体何が起こっているのかわかっていなかったと思う。私はヒールを履いていたんだけど、ステージから柵まで1メートルくらい離れていたのよ。もし正気だったら「やめておこう」って思っていたはず。ヒールで幅の細い手すりからお客さんの中にダイヴするなんてクレイジーよね。でもやっちゃった。
—後ろから観ていたら、あなたの両足が宙に浮いているのが見えました(笑)
SV: すごく楽しかった、やって良かったわ(笑)ヨガをやっているからケガもしなかったしね。
—ステージではギターだけではなく、テルミンもかき鳴らしていましたね。
SV: たぶん壊したと思う(笑)
—ご自身の楽曲以外にも、ポップ・グループの「She Is Beyond Good and Evil」をカヴァーしていましたが、あの曲にまつわる思い出をお聞かせください。
SV: あの曲にまつわる1番の思い出は、ロンドンで実際にポップ・グループのマーク・スチュワートと一緒に演奏したこと。ずっとレコードで聴いていた彼の声が急に自分の耳に入ってきて、すごかったわ。信じられなかった。本当にクレイジーだった。あれはクールな思い出よ。
—ライヴではギターの演奏スタイルがとてもユニークでしたが、何歳の頃から弾いているのですか?
SV: 12歳よ。
—他に演奏できる楽器は?まずはテルミンですよね。
SV: もちろんテルミンね、 実は「ハッピー・バースデー」しか弾けないんだけど(笑) 昔はメタルのカヴァーバンドでベースを演奏していたの。
—メタルのカヴァーバンド!?
SV: うん、アイアン・メイデンとかスレイヤーとかメタリカとかが好きな時期があったんだ。13歳〜15歳くらいかな。他にはピアノも弾けるの。
—メディアはあなたの音楽スタイルを「チャンバー・ロック」とか「インディー・ロック」とかいろいろな言葉で表現していますが、あなたはご自分の音楽をどう表現しますか?
SV: 難しいな〜。「牙の生えたポップ・ソング」かな(笑)
—先ほどもおっしゃっていたように、ポリフォニック・スプリーやスフィアン・スティーヴンスで演奏してきたとのことですが、なぜセイント・ヴィンセントとしての活動を始めたのですか?
SV: 実はポリフォニック・スプリーに居たときには、すでにファースト・アルバム『Marry Me』を制作していたの。私は常に自分の音楽を作っていて、ソロ・アーティストになりたいと思っていたわ。ラッキーなことに、ソロになる前に他のバンドで見習い体験ができたというだけ。ポリフォニック・スプリーではローブを着て汗だくになっていたわ(笑)あのローブ、すごく暑いのよ! 私はギブソンSGを弾いていたの。
—セイント・ヴィンセントという名前の由来を教えてください。
SV: ニック・ケイヴの大ファンなの。アルバム『Abattoir Blues/The Lyre of Orpheus』に「There She Goes, My Beautiful World」っていう曲が収録されているんだけど、その中に「Dylan Thomas died drunk in St. Vincent's hospital(ディラン・トーマスは酔っぱらってセイント・ヴィンセント病院で死んだ)」という歌詞が出てくるのよ。私はディラン・トーマスも大好きで、そこから名前を取ったの。

—日本でも昨年11月にリリースされた最新アルバム『Strange Mercy』は、シアトルで曲作りを行ったそうですね?
SV: ええ、曲は全てシアトルで書いたの。レコーディングはジョン・コングルトンと一緒に行ったんだけど、シアトルにはたった独りで、「孤独実験」として行ったのよ。テクノロジーのデトックスをするためにね。
—実験は成功しましたか?
SV: うん、かなりうまくいったんじゃないかな。滞在中に良いアイデアが浮かんだし。ちょっと悲痛な体験だったけれど、世の中には炭鉱で働いている人だっているんだもの、曲作りなんてたいしたことではないわ。
—なぜシアトルを選んだのですか?
SV: 友人でデス・キャブ・フォー・キューティーのメンバー、ジェイソン・マックガーが、シアトルに所有していたスタジオを売る直前で、ちょうど1ヶ月だけ空いていたから使わせてもらったの。でも寂しかったわ! 友だちはいないし、ほとんど誰とも話していなくて…3週目に入る頃には、お金を払ってでも誰かに一緒に食事をしてほしかったくらい。ホテルの受付の人に話しかけてしまうくらい寂しかったの。「ワインを飲みに行くんだけど、どう?」とか、「何をしているの?」とかね(笑) 1ヶ月くらい滞在して、アルバムの大半の曲を書き上げることができた。寂しかったけど生産性の高い日々だったわ。
—今作のリリックは、とても私的なものが多いですよね。
SV: 私はあらゆるところからインスピレーションを受けるの。たとえば「Surgeon」では、マリリン・モンローの日記の一節を引用したわ。彼女が演技のコーチだったリー・ストラスバーグのことを書いた文章よ。メソッド演技法のパイオニアと言われている人ね。常に父親的存在を求めていたマリリン・モンローにとって、リー・ストラスバーグがそういった存在だった時期があるようなの。日記には「Best finest surgeon, Lee Strasberg, come cut me open(最も有能な執刀医、リー・ストラスバーグよ、私を切り開いて)」と書かれていた。そのフレーズはすごく私に響いたの。歌ったときにうまくいかないから、リリックでは「リー・ストラスバーグ」っていう部分は消したわ。バックコーラスだったらできたのかもね。ラッパーに「リー・ストラスバーグ!」ってラップしてもらえばよかった(笑)

—ラッパーといえば、キッド・カディとコラボレートした曲(「MANIAC」)がありましたよね。
SV: うん、でもコラボレーションというよりも、彼の曲に私の曲がサンプリングされたという感じね。もちろん、私が許可した上でのことよ(笑)
—「Cruel」のミュージックビデオはダークなユーモアに溢れていて最高でした。スーパーマーケットで誘拐されて、父子家庭の母親にされたあげく、裏庭に埋められてしまうというストーリーは、本当に“Cruel(残酷)”ですね。
SV: 本当よね(笑)あのミュージックビデオはテリー・タイムリーっていうディレクター・デュオと一緒に制作したの。ビデオのアイデアは彼らが考えたのよ。「Actor Out of Work」と「Marrow」も彼らの作品なの。
—撮影はいかがでしたか?
SV: 3日間にわたって1日20時間くらい撮影したわ。あのビデオはかなり複雑だから、けっこう大変だった。ビデオで私が放り込まれる裏庭の巨大な穴は、ほとんど9歳の子役の女の子が掘ったのよ(笑) 彼女は素晴らしかったわ。キャシディっていう子で、アメリカですごく人気が上昇している「Toddler in Tiaras」っていう番組にも出演しているの。すごい子役なんだけど、あの穴を掘ってくれたわ(笑)
—あの子はビデオでの演技も良かったですよね、恐いほど無表情で。
SV: すごく上手よね。良い意味で恐ろしかったわ。ダークなちびっ子ね。あの穴に落とされた瞬間、彼女がほくそ笑んだの! ワクワクしていたみたい。面白かったわ(笑)
—アルバムがここ日本でもリリースされて、昨夜のような反応を得られたことについてはどう思いますか?
SV: すごく嬉しかったわ。オーディエンスの世代も幅広いみたいだし、自分の音楽にさまざまな人が共感してくれることは、とても嬉しいことよ。日本のファンはみんな礼儀正しくて、うるさく絡んでくるような人もいないし(笑)ライヴの後に何人かのファンと話すことができたんだけど、プレゼントを持ってきてくれたの! 日本の人は本当に温かくもてなしてくれるわね。タック&パティのファンもそうだったわ。お花とかクッキーとかハンカチやスカーフまで持って来てくれて、すごく嬉しかった。
—今後の予定は? フェスなどで再来日する予定はありますか?
SV: かもね。いつかは必ず再来日するわ。また来日できる日をとっても楽しみにしているの。アメリカに帰国したら、ニューヨークでデヴィッド・バーンと制作中のコラボレーション・アルバムを仕上げる予定よ。9月にはリリースできると思う。そのアルバムが完成したら、その後は永遠にツアーが続くから忙しくなるわ。
—日本のファンにメッセージをお願いします。
SV: コンニチハ、またはコンバンハ。あなたがこれを読んでいる時間によるわね。今回は来日させてくれてありがとう。素晴らしい旅だったわ!
Photos: Kenta Terunuma
Interview + Text: Nao Machida

セイント・ヴィンセント
ニューヨーク在住のアニー・クラークことセイント・ヴィンセントはポリフォニック・スプリーやスフィアン・スティーヴンスのツアー・メンバーとして活動を開始。2006年ベガーズ・バンケットと契約を結びソロ・アーティストとしてアーケイド・ファイアの前座をつとめる。4ADからリリースされた2nd アルバム『Actor』はピッチフォークでベスト・ニュー・ミュージックに選ばれる等、世界中で高い評価を得た。2011年11月待望のニューアルバム『Strange Mercy』をリリース。
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